【ことわざ】
商人の空値
【読み方】
あきんどのそらね
【意味】
商人が駆け引きしてつける値段は、そのまま信用しにくいということ。売り手の言い値をうのみにせず、よく見きわめよという戒め。


【英語】
・caveat emptor(買い手は用心せよ)
・let the buyer beware(買う側が注意せよ)
【類義語】
・商人の元値(あきんどのもとね)
・商人の空誓文(あきんどのそらせいもん)
・商人の泣き言(あきんどのなきごと)
【対義語】
・正直の頭に神宿る(しょうじきのこうべにかみやどる)
・正直は一生の宝(しょうじきはいっしょうのたから)
・嘘つきは泥棒の始まり(うそつきはどろぼうのはじまり)
「商人の空値」の語源・由来
『商人の空値』は、商人の言う値段には掛け引きがまじりやすく、そのまま信じにくいという考えを表すことわざです。ここで大事なのは「空値」という言葉で、これは実際より高くつけた値段、いわゆる掛け値を指します。
この「空」は、空っぽの空というより、実が入っていない、ほんとうではない、という感じをもつ字です。つまり「空値」は、見た目には値段でも、ほんとうの値より上乗せされた言い方だと考えると、意味がつかみやすくなります。
この言葉の土台はかなり古く、『日葡辞書(にっぽじしょ)』には、1603年(慶長8年・江戸時代初期)から1604年(慶長9年・江戸時代初期)ごろの語として「空値」が収められています。そこでは、すでに実際より高くつけた値段という意味がはっきりしていました。
さらに、安楽庵策伝(あんらくあんさくでん)の『醒睡笑(せいすいしょう)』には、1628年(寛永5年・江戸時代前期)までに伝わっていた例が残っています。ここでも「空値」は、ふつうの値に上乗せして言う感覚をもつ言葉として使われています。
つまり、「空値」は、近世のはじめにはもう耳なじみのある商売ことばだったのです。品物の値段をそのまま言うのでなく、少し高めに出したり、相手とのやり取りを見こして言ったりする感覚が、この一語に入っていました。
そこから生まれたのが、『商人の空値』というまとめ方です。商人がつける値段は、ただの数字ではなく、売るための工夫や話術も入っていることがあるので、言い値をそのまま受け取らないほうがよい、という教えになりました。
このことわざと特に近いのが、『商人の元値』です。こちらは、商人が「これが仕入れ値だ」「これでは元値が切れる」と言っても、その元値がどこまでほんとうか分からないという言い方で、注意する相手が「売値」か「元値」かの違いはあっても、どちらも商人の言い分をすぐには信じないという点でつながっています。
また、少し広い意味では『商人の空誓文』という近いことわざもあります。こちらは値段だけでなく、商人の言葉や約束そのものに掛け引きが多いという言い方で、1649年(慶安2年・江戸時代前期)成立の『吾吟我集(ごぎんわがしゅう)』にすでに例が見えます。
こうして見ると、『商人の空値』は、一つの品物だけを指す狭い言い回しではありません。売り手の言葉がうまく聞こえるときほど、ほんとうの値打ちや相場を自分でも見て考えるべきだという、暮らしの知恵として育ってきたことが分かります。
今の暮らしでは、昔の店先のやり取りそのままではなく、広告の大きな値引き表示や、限定価格の見せ方にも重ねて読みやすいことわざです。最初に出された値段や説明だけで決めず、自分でも確かめるという姿勢を短く言い表せるところに、このことわざの今も変わらぬ力があります。
「商人の空値」の使い方




「商人の空値」の例文
- 学園祭の古本市で店番の強いおすすめを聞いたが、商人の空値と思い、ほかの机の値段も見てから選んだ。
- 母は通販の大幅値引きを見て、商人の空値かもしれないと考え、前の販売価格を調べた。
- 友だちに勧められた中古自転車の値段が高すぎて、商人の空値という言葉が頭に浮かんだ。
- 縁日の露店で「これが最後の一つ」と言われても、商人の空値と見て、すぐには財布を開かなかった。
- 仕入れ担当の父は、取引先の最初の見積もりを商人の空値と考え、相場を集め直した。
- 本日だけ特価とうたう広告には、商人の空値を思わせる響きがあった。























