【ことわざ】
暑さ忘れて陰忘る
【読み方】
あつさわすれてかげわする
【意味】
暑さが去ると木陰のありがたみを忘れるように、苦しいときに受けた恩を、楽になるとすぐ忘れてしまうことのたとえ。


【英語】
・The danger past and God forgotten(危険が去ると神への感謝を忘れる)
【類義語】
・喉元過ぎれば熱さを忘れる(のどもとすぎればあつさをわすれる)
・雨晴れて笠を忘る(あめはれてかさをわする)
・病治りて医師忘る(やまいなおりていしわする)
【対義語】
・犬は三日飼えば三年恩を忘れぬ(いぬはみっかかえばさんねんおんをわすれぬ)
「暑さ忘れて陰忘る」の語源・由来
「暑さ忘れて陰忘る」は、真夏の強い日ざしを避けて物陰に入り、その涼しさに助けられたのに、暑さが去るとそのありがたさを忘れてしまう、という身近な場面から生まれたことわざです。ここでいう「陰」は、暑さをしのがせてくれる木陰や物陰を表し、そこから、苦しい時に助けてくれた人の恩を忘れることへの戒めへと意味が広がっています。
古い用例としては、『毛吹草(けふきぐさ)』(1638年序・江戸時代前期、松江重頼編)に、このことわざが現れます。『毛吹草』は、俳諧(はいかい)の作法や句作に役立つ言葉、発句、付合(つけあい)などを集めた書物で、ことわざや世間で使われる言い回しを広く取り込んだ性格をもっています。
この段階での表記には、「陰」ではなく「蔭」を用いた「暑さ忘れて蔭忘る」という形もあります。「蔭」は、日をさえぎるもののかげ、またそのありがたみを含みやすい表記で、暑い時には頼りにした涼しい場所を、暑さが消えると忘れてしまうという具体的な情景をよく表しています。
「忘る」は、現代語の「忘れる」にあたる古い言い方です。そのため、このことわざには「暑さ忘れて陰忘る」「暑さ忘れて蔭忘る」「暑さ忘れりゃ蔭忘る」のように、表記や言い回しに少し違いがありますが、中心となる意味は同じです。
このことわざの考え方は、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」「雨晴れて笠を忘る」「病治りて医師忘る」などと同じ流れにあります。どれも、苦しい時には助けや道具をありがたく思うのに、苦しさが過ぎるとその恩を忘れてしまう人間の弱さを言い表しています。
ただし、「暑さ忘れて陰忘る」は、口の熱さや雨具、医師の世話ではなく、「暑さ」と「陰」という目に浮かびやすい対比で成り立っています。日ざしのつらさがなくなった途端に、日陰の涼しさを忘れるという情景が、恩を受けた時の気持ちを長く保つことの大切さを、静かに教えているのです。
そのため、現在では、単に「忘れっぽい」という意味ではなく、困った時に支えてくれた人やものへの感謝を、楽になってからも忘れてはならない、という戒めとして使われます。暑さが去ったあとにこそ陰のありがたさを思い出す心が、人との信頼を守るという意味につながっています。
「暑さ忘れて陰忘る」の使い方




「暑さ忘れて陰忘る」の例文
- テスト前に友人からノートを借りたのに、点数が上がった途端に礼を忘れるのは、暑さ忘れて陰忘るというものだ。
- 店が苦しい時期に支えてくれた常連客を、人気が出てから粗末にするのは、暑さ忘れて陰忘るに当たる。
- けがをしたとき毎日手伝ってくれた家族への感謝を忘れてはいけない、暑さ忘れて陰忘るになってしまう。
- 新人のころに仕事を教えてくれた先輩を、慣れてから軽んじるのは、暑さ忘れて陰忘るの態度だ。
- 避難生活で世話になった地域の人々を、生活が落ち着いてから忘れるのは、暑さ忘れて陰忘るである。
- 合宿中に仲間の支えで乗り切ったのに、試合に勝ったあと一人の手柄にするのは、暑さ忘れて陰忘ると言われても仕方がない。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・松江重頼編『毛吹草』1638年序、1645年刊。
・Martin H. Manser編『The Facts On File Dictionary of Proverbs, Second Edition』Facts On File、2007年。























