【慣用句】
足掻きが取れない
【読み方】
あがきがとれない
【意味】
動作が自由にならず、気をもんでもどうしようもないこと。取るべき手段や方法がないこと。


【英語】
・be in a fix.(困ってどうにもならない状態にある)
【類義語】
・動きが取れない(うごきがとれない)
「足掻きが取れない」の語源・由来
「足掻き」は、動詞「あがく」の連用形が名詞となった言葉です。もともとの「あがく」は、馬や牛が地面を掻くように足を動かすことを表し、「足掻き」も、まず馬の足の動きや歩みを指す言葉として使われました。
『万葉集(まんようしゅう)』(8世紀後半成立、奈良時代)の巻十一・二五一〇には、「赤駒之足我枳速者」と記されています。読み下し文では「赤駒の足掻き速けば」となり、赤い馬の歩みが速いために、恋しい相手のもとからすぐに去らなければならない、という歌です。この「足我枳」は、悩んでも仕方がないという現在の意味ではなく、馬の足取りを表しています。
やがて「あがく」は、人の手足の動きにも用いられるようになります。『宇津保物語(うつほものがたり)』(10世紀後半ごろ成立、平安時代中期)には、「手をあがきて祈り」という用例があります。ここでは、人が手を動かしながら必死に祈る様子を表しており、馬の足の動きを表した言葉が、人のもがく動きへと広がっていった段階を示しています。
さらに、室町時代には、体の動きだけでなく、欲しいものを得ようとして心を苦しめ、むやみに動き回る意味にも使われるようになります。惟高妙安の『玉塵抄(ぎょくじんしょう)』(1563年・室町時代)には、「財宝をほしがってあがけば、わざわい恥辱なことが来ぞ」とあります。財宝を求めてあせり、かえって災いや恥を招くという文脈で、「あがく」が心の焦りと無理な努力を表しています。
近世から近代にかけて、この比喩的な使い方は、暮らしや金銭の苦しみにも結びついていきます。『浮雲』(1887~1889年・明治時代、二葉亭四迷著)には、貯蓄が乏しくなったために「足掻き出した」という用例があり、何とか生活を立て直そうとして動く意味で使われています。
「足掻きが取れない」というまとまった言い方には、「足掻きがつかない」という形もあります。『満韓ところどころ(まんかんところどころ)』(明治42年、夏目漱石著)には、胃が痛み、声にも体にも力を入れられず、「一寸も足掻きが取れなかったのである」と述べる箇所があります。ここでは、まず身体の自由がきかない苦しさが表されています。
現在では、この言い方は、体が自由にならない場合だけでなく、借金や資金不足などに追い詰められ、どのような方法も取れない場合にも用いられます。馬が足を動かす具体的な「足掻き」から、人が必死にもがく意味へ、さらに、もがく余地さえない行き詰まりを表す慣用句へと、意味を重ねながら定着した表現です。
「足掻きが取れない」の使い方




「足掻きが取れない」の例文
- 大雪で道路も鉄道も止まり、村は物資を運べず足掻きが取れない状態になった。
- 店は仕入れ代の支払いが重なり、新しい資金も得られず足掻きが取れない。
- けがで両腕を固定され、入院中の祖父は身の回りのことにも足掻きが取れない。
- 交渉は双方が条件を譲らず、担当者は次の案も出せないまま足掻きが取れない。
- 文化祭の前日に会場が使えなくなり、代わりの場所もなく実行委員会は足掻きが取れない。
- 災害で通信も交通も断たれ、住民は足掻きが取れないまま救援を待った。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典 第一巻 あ―こ』小学館、2006年。
・小学館辞典編集部編『日本語便利辞典』小学館、2004年。
・近藤いね子・高野フミ編『プログレッシブ和英中辞典 第四版』小学館、2011年。
・『万葉集』8世紀後半成立。
・惟高妙安『玉塵抄』1563年。
・夏目漱石『満韓ところどころ』1909年。























