【故事成語】
悪人の友を捨てて善人の敵を招け
【読み方】
あくにんのともをすててぜんにんのかたきをまねけ
【意味】
目先の助けになる味方でも悪人なら遠ざけ、今は敵対していても善人なら受け入れるべきだという教え。人を好き嫌いや損得ではなく、その人の正しさで見よということ。


【英語】
・Better an honest enemy than a false friend.(偽りの友より、正直な敵のほうがよい)
・A wicked friend is worse than an open enemy.(悪い友は、公然の敵より有害である)
・Choose an honest foe over a dishonest friend.(不正な友より、正しい敵を選べ)
【類義語】
・善悪は友による(ぜんあくはともによる)
・朱に交われば赤くなる(しゅにまじわればあかくなる)
・麻に連るる蓬(あさにつるるよもぎ)
【対義語】
・類は友を呼ぶ(るいはともをよぶ)
・魚心あれば水心(うおごころあればみずごころ)
・遠くの親類より近くの他人(とおくのしんるいよりちかくのたにん)
「悪人の友を捨てて善人の敵を招け」の故事
悪人の友を捨てて善人の敵を招けは、目の前の利益よりも、人としての正しさを選ぶべきだという教えを表す故事成語です。いまの言い回しとしては少し長い形ですが、古典芸能の中で強く印象づけられ、広く知られるようになりました。
この言葉と深く結びついているのは、能『敦盛(あつもり)』です。『敦盛』は、平家の若武者である平敦盛(たいらのあつもり)と、彼を討った熊谷次郎直実(くまがいのじろうなおざね)の因縁を題材にした作品です。
もとの出来事は、一ノ谷の合戦があった1184年(寿永3年・平安時代末期)にさかのぼります。源氏方の武将であった直実は、まだ若い敦盛を討ち取りますが、その若さと気高さに心を動かされ、のちに出家したと伝えられます。
出家後の直実は、蓮生(れんしょう・れんせい)と名乗ります。能『敦盛』では、この蓮生が敦盛の菩提を弔うため、かつての戦場であった一ノ谷を訪れるところから話が進みます。
そこで蓮生は、笛を吹く草刈男に出会います。やがてその男が敦盛にゆかりのある者であることがほのめかされ、夜になると、敦盛の霊が本来の姿であらわれます。
この場面で大切なのは、昔は敵どうしであった二人が、仏の道の上ではもう別の関係になっているという点です。蓮生は敦盛を弔い続け、敦盛もまた、その回向によって救われる相手として蓮生に向き合います。
その流れの中で、昔の敵が、いまは法の友になったという意味が強く打ち出されます。そして、その心の転換をはっきり言いあらわす言葉として、悪人の友を捨てて善人の敵を招けにあたる一節が語られます。
古い詞章では、いまの形より少し長く、悪人の友を振り捨てて善人の敵を招けという言い方になっています。ここでいう悪人の友は、こちらに近く、助けてもくれるが、道を誤らせる相手です。
反対に、善人の敵とは、ただ憎い相手という意味ではありません。自分に厳しく向き合い、立場としては敵であっても、人としては正しく、むしろ近づく価値のある相手を指しています。
このため、この故事成語は、敵をむやみに大事にせよという意味ではありません。自分に甘くしてくれる人よりも、自分のまちがいを正し、正しい道へ向けてくれる人を選べという教えとして理解するのが自然です。
この言い方は、のちの時代にも受け継がれました。たとえば1751年(宝暦元年・江戸時代中期)の浄瑠璃『一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)』にも、これに近い形の言葉が出てきており、この表現が広く親しまれていたことが分かります。
こうして、能の中で強く印象づけられた言葉は、芸能の世界をこえて、人づきあいの教えとして定着しました。いまでは、悪い仲間とは離れ、たとえ耳の痛いことを言う相手でも、正しい人を選ぶべきだという意味で使われています。
なお、読み方は一般にかたきをまねけとすることが多く、敵をてきと読むこともあります。けれども、どちらの場合も、言葉のいちばん大事なところは、味方か敵かより、その人が善か悪かを見きわめよという点にあります。
「悪人の友を捨てて善人の敵を招け」の使い方




「悪人の友を捨てて善人の敵を招け」の例文
- 反則を勧める仲間から離れたとき、悪人の友を捨てて善人の敵を招けという教えの重さを知った。
- 兄は、うわべだけ親切でも人をだます友人とは付き合うなと、悪人の友を捨てて善人の敵を招けと言って聞かせた。
- 部長は、耳あたりのよい意見ばかり集めるな、悪人の友を捨てて善人の敵を招けと新入部員に話した。
- 会社で不正を見逃してくれる取引先より、厳しくても筋を通す相手を選ぶのは、悪人の友を捨てて善人の敵を招けの実行である。
- 選挙の場でも、身内に甘い味方を守るより、悪人の友を捨てて善人の敵を招けの姿勢が求められる。
- 悪人の友を捨てて善人の敵を招けという言葉どおり、子どもは自分を甘やかす仲間より、正しく注意してくれる友人を信じるべきだ。























