【ことわざ】
あったら口に風邪ひかす
【読み方】
あったらくちにかぜひかす
【意味】
親切な気持ちで言ったことや、せっかくの助言が聞き入れられず、むだになることのたとえ。


【英語】
・to waste one’s breath(忠告しても聞いてもらえず、言うだけむだになる)
【類義語】
・惜口に風を入る(あたらくちにかぜをいる)
「あったら口に風邪ひかす」の語源・由来
「あったら口に風邪ひかす」は、「あたら口に風を入る」「あったら口に風を引かす」といった古い言い回しとつながることわざです。「あたら」は「惜しくも」「残念なことに」という意味をもつ言葉で、「あったら」はその変化した形です。つまり、せっかく口に出した言葉がむだになってしまう残念さを、「口に風を入れる」「口に風を引かせる」という形で表したものです。
古い形としては、江戸時代前期の浮世草子『新色五巻書(しんしきごかんしょ)』(1698年、西沢一風著)に、「あたら口に風引かせるが損なり」という用例があります。この形では、せっかく意見をしたり、よい声で歌ったりしても、そのかいがなくなるという意味を表します。口から出した言葉や声が、相手に届かず、ただ風にさらされたようにむだになるという比喩が、すでにこの時期に使われていたことが分かります。
その後、浄瑠璃『金屋金五郎浮名額』(1703年・江戸時代前期)には、「可惜(アッタラ)口に風引かすな」という形が出てきます。ここでは「可惜」を「アッタラ」と読ませ、「あたら」から「あったら」へ変化した形が、芝居のせりふとして使われています。場面の中では、工面すれば事が片づくのに、無駄に先延ばししてはいけないという流れで使われ、せっかく言う言葉をむだにするなという意味合いがこめられています。
古い用例では、「風邪」と書くよりも「風引かす」「風引かせる」の形が目立ちます。現在の「風邪ひかす」は、口が風邪を引くという少しおかしみのある言い方に見えますが、中心にあるのは、口に出した言葉がむだになるという意味です。実際に病気になることをいうのではなく、親切な言葉が相手に受け取られず、言っただけ損になることを、口と風のたとえで表しています。
このことわざは、中国の古い故事に基づくものではなく、日本の近世の言い回しの中で形を整えてきた表現です。はじめは「口に風を入る」「風を引かせる」という形で、言葉や声がむだになることを表し、のちに「あったら口に風邪ひかす」という分かりやすい形でも用いられるようになりました。現在では、相手を思って助言したのに聞き入れられないときの、少し残念でくやしい気持ちを表すことわざとして使われます。
「あったら口に風邪ひかす」の使い方




「あったら口に風邪ひかす」の例文
何度も締め切りを知らせたのに、弟は宿題を出し忘れ、あったら口に風邪ひかすと思った。
・友人のために道順を細かく教えたが、友人は地図を見ずに迷い、あったら口に風邪ひかすことになった。
・母が忘れ物をしないように声をかけたのに、兄は体操服を置いて出かけ、あったら口に風邪ひかす結果になった。
・会議の前に資料を読んでおくよう伝えたが、誰も読んでおらず、あったら口に風邪ひかす気持ちになった。
・先生が危ない場所には近づかないよう注意したのに、生徒が同じ場所で転び、あったら口に風邪ひかすようだった。
・町内の清掃日を何度も連絡したのに参加者が少なく、役員はあったら口に風邪ひかすとこぼした。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・西沢一風『新色五巻書』萬屋仁兵衛、1698年。
・『金屋金五郎浮名額』1703年。
・Cambridge University Press『Cambridge Dictionary』。























