【ことわざ】
急がば高火
【読み方】
いそがばたかび
【意味】
急いで物を煮炊きするときほど、火に近づけすぎず、効率のよい加減を選ぶべきだという教え。急ぐときほど焦らず、確かな方法をとるべきことのたとえ。


【英語】
・More haste, less speed(急ぎすぎると、かえって遅くなる)
・Haste makes waste(急ぐと、むだや失敗を生む)
【類義語】
・急がば回れ(いそがばまわれ)
・急いては事をし損ずる(せいてはことをしそんずる)
【対義語】
・善は急げ(ぜんはいそげ)
・鉄は熱いうちに打て(てつはあついうちにうて)
「急がば高火」の語源・由来
「急がば高火」は、中国の古い故事にもとづく故事成語ではなく、日本の煮炊きの経験から生まれたことわざです。「急がば」は「急ぐならば」という意味で、「高火」は、火や鍋の扱いで、近づけすぎず、火のよく働くところを使う考えにつながっています。
このことわざのもとの意味は、急いで物を煮るときには、鍋を火に近づけすぎないほうがよい、というものです。近づければ早く煮えるように思えても、火の働きがかえって悪くなり、できあがりが遅くなることがあります。
火の扱いには、見た目の近さだけでは分からない性質があります。ろうそくの炎でも、中心に近い部分より外側の炎のほうが高温になりやすく、外炎は高い温度に達します。
この性質を考えると、「火に近づけるほどよく煮える」と単純にはいえません。火のいちばん有効なところに鍋を当て、焦げつきやむらを防ぎながら熱を通すほうが、結果として早く確実に仕上がります。
昔の暮らしでは、囲炉裏(いろり)やかまどで火を使い、鍋や釜をかけて煮炊きしました。囲炉裏では、自在鉤(じざいかぎ)という道具で鍋ややかんを吊るし、高さを変えることで火力を調整しました。
つまり、火加減とは、ただ火を強くすることだけではありません。鍋をどの高さに置くか、どの距離で熱を受けるかを考えることも、暮らしの中の大切な知恵でした。
青森県の地域資料にも、「急がば高火」と同じ意味の言い方として、早く煮ようとして鍋を低くしても、むしろ鍋を高くして火力の強いところを使うほうがよい、という趣旨の説明が出てきます。これは、生活の中で火と鍋の距離を細かく見ていたことをよく示しています。
このような煮炊きの知恵から、言葉の意味は料理だけに限られなくなりました。急いでいるときに、手順を飛ばしたり、近道に見える方法へ飛びついたりすると、かえって失敗して時間を失う、という教えとして広がりました。
意味の近い「急がば回れ」も、危険な近道より遠くても安全確実な方法を選ぶほうが、結局は目的を早く達するという考えを表します。「急がば高火」は、同じ考えを、火と鍋の扱いという身近な生活のたとえで表していることわざです。
現在では、料理の場面だけでなく、勉強、仕事、準備、修理、話し合いなどにも使えます。急ぐほど基本を守り、いちばん確かな方法を選ぶことが、結局は早道になるという意味で受け止めると、このことわざの芯が分かりやすくなります。
「急がば高火」の使い方




「急がば高火」の例文
- 夕食を早く作ろうとして強火だけで煮たら焦げついたので、急がば高火を思い知った。
- 締め切りが近いほど、資料の確認を省かないのが急がば高火というものだ。
- 説明書を読まずに組み立て始めると部品を間違えるから、急がば高火で手順を確かめる。
- 駅まで近道を走って転ぶより、安全な道を選ぶほうが急がば高火にかなう。
- 試験前に答えだけを丸暗記するより、例題を解き直すほうが急がば高火だ。
- 新しい仕事を急いで覚えるには、まず基本の操作を確実に身につけるのが急がば高火となる。
主な参考文献
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・七戸町史刊行委員会編『七戸町史 1』七戸町、1982・1985年。
・Oxford University Press『Oxford Advanced Learner’s Dictionary 10th Edition』Oxford University Press、2020年。























