【故事成語】
窮すれば通ず
【読み方】
きゅうすればつうず
【意味】
物事が行き詰まり、どうにもならない状態まで追い込まれると、かえって思いがけない活路が開けるということ。


【英語】
・There is a remedy for everything except death.(死を除けば、どのようなことにも解決法がある)
【類義語】
・必要は発明の母(ひつようははつめいのはは)
【対義語】
・万事休す(ばんじきゅうす)
「窮すれば通ず」の故事
「窮すれば通ず」は、中国の古典『易経(えききょう)』の「繫辞伝(けいじでん)・下」に由来します。『易経』は『周易』とも呼ばれ、古くは占いに用いられた書物ですが、後に物事の変化や人の生き方を説く儒教の経典となり、五経の一つに数えられました。
「繫辞伝」は、『易経』の本文を広く解き明かす文章で、上下二編から成ります。孔子の作と伝えられてきましたが、撰者は明らかではなく、現在の形は、戦国時代末から前漢初めごろにかけて整えられたとみられています。
「繫辞伝・下」には、「易窮則変、変則通、通則久」とあります。書き下せば、「易は窮すれば則ち変じ、変ずれば則ち通じ、通ずれば則ち久し」となります。
やさしく言えば、「物事が行き着くところまで行けば変化が起こり、うまく変化すれば道が開け、道が開ければ長く続く」という意味です。「窮」は限界まで行き詰まることを、「通」は妨げがなくなり、先へ進めるようになることを表します。
この一節の前には、伝説上の帝王である神農(しんのう)の後を、黄帝(こうてい)・堯(ぎょう)・舜(しゅん)が継いだことが書かれています。黄帝たちは、古い方法が時代に合わなくなると、それを変化させ、人々が飽きたり苦しんだりしないよう、暮らしに適した仕組みを整えたと述べています。
したがって、原典の教えは、行き詰まったまま何もせずに待てば、ひとりでに問題が解決するというものではありません。これまでの方法が通用しなくなったときには、その時に合うよう方法を改めることで、新しい道が開けるという考え方です。
唐代の注釈書『周易正義(しゅうえきせいぎ)』も、「易の道が窮まれば、時に従って変えなければならず、変えれば道が開けて長く続く」という趣旨で、この一節を解いています。行き詰まりは終わりではなく、変化を必要とする合図として捉えられています。
日本では、原文の「窮すれば変ず、変ずれば通ず」という流れを縮め、「窮すれば通ず」という形で用いるようになりました。途中の「変ずれば」が表面には出なくなりましたが、苦境の中で工夫や変化が生まれ、それによって活路が開くという考え方は受け継がれています。
古い日本語の用例は、新井白石の自叙伝『折たく柴の記(おりたくしばのき)』(1716年・江戸時代中期、新井白石著)にあります。そこには、「『窮しては通ず』とこそ大易にも見え侍れ」とあり、「窮すれば」ではなく「窮しては」という形で、『易経』の教えを引いています。
その後、「窮すれば通ず」という形が広く定着し、昭和45年の曾野綾子の小説『傷ついた葦』にも、現在と同じ形で使われています。原典の変化の思想を背景にしながら、日本語では、どうにもならないほど困ったときにこそ、思いがけない解決の道が開けるという励ましの言葉として用いられています。
「窮すれば通ず」の使い方




「窮すれば通ず」の例文
- 材料が足りずに困ったが、身近な物を代用したところ、窮すれば通ずで作品を完成させることができた。
- 研究が行き詰まったとき、窮すれば通ずと考えて実験方法を根本から見直した。
- 店の経営が苦しくなったが、宅配を始めたことで、窮すれば通ずの言葉どおり新しい客が増えた。
- 旅行先で道に迷ったものの、地元の人に尋ねたことから思わぬ名所を知り、窮すれば通ずとなった。
- 資金不足に直面した住民たちは、窮すれば通ずと知恵を出し合い、廃材を利用して集会所を直した。
- 窮すれば通ずというように、厳しい条件の中で考え抜いた末、チームは新しい作戦を生み出した。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・王弼・韓康伯注、孔穎達疏『周易正義』。
・『周易』「繫辞下」。
・新井白石『折たく柴の記』1716年。























