【ことわざ】
機に縁りて法を説け
【読み方】
きによりてほうをとけ
【意味】
相手の素質やその場の事情に応じて、ふさわしい教え方や対応をするべきだということ。転じて、物事は状況に合わせて臨機応変に処理するべきだという意味。


【英語】
・Tailor your message to your audience.(相手に合わせて伝え方を調整する)
【類義語】
・人を見て法を説け(ひとをみてほうをとけ)
・対機説法(たいきせっぽう)
・臨機応変(りんきおうへん)
【対義語】
・杓子定規(しゃくしじょうぎ)
・千篇一律(せんぺんいちりつ)
「機に縁りて法を説け」の語源・由来
「機に縁りて法を説け」は、仏教の説法の考え方から生まれたことわざです。「法」は仏の教えを指し、「説く」はその教えを人に分かるように語ることを表します。
ここでいう「機」は、ただの機会ではなく、教えを受ける人の素質や能力を含む仏教語です。仏の教えを受ける人の性質や力に応じて説くことを、「対機説法」といいます。
また、「縁」は、仏教では物事が起こるための条件やきっかけを表します。「機縁」は、教えを求める資質が、教えを説くきっかけとなることを指します。
このため、「機に縁りて」という形は、相手の資質や、その場に生じたきっかけに応じて、という意味を帯びています。「縁」という字には、「よる」「もとづく」という意味もあります。
この考え方の背景には、『法華経(ほけきょう)』があります。『法華経』は、正しくは『妙法蓮華経』といい、中国では406年に鳩摩羅什によって漢文に訳されたと伝わります。
『法華経』は二十八品から成り、その中に「方便品(ほうべんぽん)第二」があります。この「方便品」では、仏が人々の能力に合わせてさまざまな教えを説いてきたことが、最終的には一つの教えへ導くためであったと示されます。
「方便品」には、「随宜所説。意趣難解。」という言葉が出てきます。「随宜」は、相手や時、場所にふさわしく従うことを表し、教えを聞く人に応じて説き方を変える考え方につながります。
同じ発想は、「人を見て法を説け」ということわざにも表れています。この言い方は、相手の人柄や能力を見て、それにふさわしい助言をするべきであるという意味です。
「機に縁りて法を説け」に近い形としては、「機に因って法を説く」「機に因りて法を説く」も用いられます。これらは、仏教の真理は一つであるが、機会や相手に応じて適切に説法し、転じて臨機応変に処理する意味で使われます。
日本での古い用例として、『毛吹草(けふきぐさ)』に「機に因って法を説く」の形が出てきます。『毛吹草』は、松江重頼が編んだ俳諧の作法書・撰集で、1645年刊、序文には1638年の成立とあります。
『毛吹草』は、俳諧の言葉や付合を集めた書物で、巻二には世話や俚諺に関わる語も収められました。このことから、仏教の説法に関する言い方が、江戸時代には広く使える教訓として受け止められていたことが分かります。
現在の「機に縁りて法を説け」は、仏教の場面だけに限られません。相手の理解力、性格、年齢、置かれた状況を見きわめ、同じ内容でも伝え方を変えるべきだ、という日常的な知恵として使われます。
大切なのは、相手に合わせることが、いい加減に変えることではない点です。伝えるべき中身を大切にしながら、相手が受け取りやすい形に整えるところに、このことわざの教えがあります。
「機に縁りて法を説け」の使い方




「機に縁りて法を説け」の例文
- 低学年に理科を教えるときは、機に縁りて法を説けで、身近な道具を使って説明するのがよい。
- 新入社員への注意は、機に縁りて法を説けの気持ちで、相手の経験に合わせて伝える必要がある。
- 祖母にスマートフォンの使い方を教えるなら、機に縁りて法を説けで、専門用語を避けるべきだ。
- 同じ作戦でも相手チームの特徴が違うため、監督は機に縁りて法を説けの姿勢で指示を変えた。
- 友人を励ますときは、機に縁りて法を説けというように、その人の気持ちを見て言葉を選びたい。
- 機に縁りて法を説けを忘れて一方的に説明したため、せっかくの助言が相手に届かなかった。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・松江重頼編『毛吹草』1645年。
・鳩摩羅什訳『妙法蓮華経』406年。
・『新纂浄土宗大辞典』浄土宗総合研究所、2016年。























