【慣用句】
開いた口が塞がらない
【読み方】
あいたくちがふさがらない
【意味】
あきれたり、驚いたりして、ものが言えないさま。相手の非常識な言動や、予想をこえるひどい出来事に接したときに用いる。


【英語】
・be speechless(怒り・驚き・感動などで言葉が出ない)
・be dumbfounded(強い驚きで言葉を失う)
【類義語】
・二の句が継げない(にのくがつげない)
・何をか言わんや(なにをかいわんや)
・呆気に取られる(あっけにとられる)
「開いた口が塞がらない」の語源・由来
「開いた口が塞がらない」は、驚きやあきれのために口を開いたままになり、言葉が出なくなる様子をもとにした慣用句です。実際の体の動きをもとにして、心の中の強い驚きやあきれを表す比喩として定着しました。
この表現は、中国の古い人物や出来事に由来する故事成語ではなく、日本語の言い回しとして扱うのが自然です。現在は「開いた口が塞がらない」と言うのがふつうですが、古い形としては「開いた口が塞がらぬ」がよく示されます。
古い用例として重要なのが、『御前義経記(ごぜんぎけいき)』(1700年・江戸時代前期、西沢一風作)です。この作品は浮世草子(うきよぞうし)の一つで、義経伝説を下敷きにしながら、主人公が諸国をめぐる物語として作られました。
『御前義経記』には、「茶くれし女は、現かふしぎと、あいた口のふさがらず」という形が出てきます。ここでは、ふしぎな出来事を前にした女が、あきれたり驚いたりして口を閉じられない様子を表しており、現在の意味にかなり近い使い方です。
この古い用例では、「開いた口が塞がらない」という心の状態が、目に見える体の様子として描かれています。驚きが強すぎるために言葉が出ず、口だけが開いたままになるという形が、のちの慣用句の中心になりました。
一方で、古い時代には、現在の「あきれてものが言えない」という意味だけでなく、「うっとりしている」「我を忘れている」という意味でも使われた例があります。つまり、もとは「強い心の動きで口が開いたままになる」という体の様子から、いくつかの心理状態を表すことができたと考えられます。
その例として、『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』(1748年・江戸時代中期、二世竹田出雲・三好松洛・並木千柳合作)があります。この作品は人形浄瑠璃(にんぎょうじょうるり)の代表作で、赤穂浪士の仇討を脚色した全十一段の大作です。
『仮名手本忠臣蔵』では、「師直は明いた口ふさがれもせずうっとりと」という形が出てきます。これは、高師直(こうのもろなお)が豪華な贈り物の目録を見て心を奪われ、ぼうっとしている場面の表現です。
この用例は、現在の「ひどさにあきれる」という意味とは少し違います。しかし、口が開いたままになるほど心を動かされるという点では、同じ身体表現を土台にしています。
その後、現代の言い方では、「うっとりする」意味よりも、「あきれ返ってものが言えない」意味が中心になりました。とくに「開いた口が塞がらない」は、相手の言動があまりにひどい、または常識から外れているために、すぐには返す言葉が見つからない場面で使われます。
表記の面では、古い用例に「塞がらぬ」「ふさがらず」「明いた口」などの形があり、現在では「塞がらない」「開いた口」と書くのが一般的です。文語的な「ぬ」から、口語的な「ない」へ移ったことで、日常の会話や文章にも使いやすい形になりました。
この慣用句は、口という身近な体の部分を使って、言葉を失うほどの驚きやあきれを表しています。古い用例では「驚き」「うっとり」の両方に広がりがありましたが、現在は主に、常識外れの行動や発言に対する強いあきれを表す言い方として定着しています。
「開いた口が塞がらない」の使い方




「開いた口が塞がらない」の例文
- 会議の資料を一度も読まずに反対だけする態度には、開いた口が塞がらない。
- 友人の失敗を笑いながら広めるような行動に、開いた口が塞がらない思いだった。
- 約束の時間を一時間も過ぎてから、忘れていたと言われ、開いた口が塞がらない。
- 店の商品を乱暴に扱って平気でいる客を見て、開いた口が塞がらない気持ちになった。
- 宿題を写しただけなのに自分の努力だと言い張るので、開いた口が塞がらない。
- 大切な連絡を止めておきながら責任を人に押しつけるとは、開いた口が塞がらない。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・日本大百科全書編集委員会編『日本大百科全書』小学館、1984〜1994年。
・西沢一風『御前義経記』1700年。
・二世竹田出雲・三好松洛・並木千柳『仮名手本忠臣蔵』1748年。
・Cambridge University Press『Cambridge Dictionary』。























