【ことわざ】
負うた子より抱いた子
【読み方】
おうたこよりだいたこ
【意味】
離れている者よりも、身近な者をまず大切にするのが人情の常であるというたとえ。


【英語】
・Charity begins at home(まず身近な人を大切にすべきである)
【類義語】
・生んだ子より抱いた子(うんだこよりだいたこ)
・生みの親より育ての親(うみのおやよりそだてのおや)
「負うた子より抱いた子」の語源・由来
「負うた子より抱いた子」は、背中に負っている子よりも、腕に抱いている子のほうへ、親の関心がまず向きやすいという情景から生まれたことわざです。そこから、離れている者よりも身近な者、他人よりも血縁の者を大切に思うのが人情である、という意味を表すようになりました。
「負う」は、背中に載せる、背負うという意味をもつ言葉です。背中の子はたしかに身近にいますが、顔や表情は見えにくく、目の前に抱いた子ほどすぐには気づきにくい位置にいます。
「抱く」は、腕でかかえ持つことを表します。抱いた子は親の胸もとや腕の中にいるため、泣いたり動いたりすればすぐに分かり、自然と先に世話をしたくなる存在としてとらえられます。
このことわざは、背負った子を軽んじるという意味ではありません。同じように関係のある相手であっても、目の前にいて手の届く者へ、気持ちや世話が先に向かうという人の心の動きを言い表しています。
古い用例として、『沖津白波』(1702年・江戸時代前期、都の錦撰)巻五に「負(オフ)た子より懐(ダイ)た子」という形が出てきます。『沖津白波』は大坂の勧楽堂から元禄十五年に刊行された五巻本で、都の錦が撰した浮世草子です。
この用例では、「さりとも不便におもひながら負(オフ)た子より懐(ダイ)た子」とあります。気の毒に思いながらも、まず自分の近くにいる者、引き取って養える者のほうを考えざるを得ない、という文脈で使われています。
『沖津白波』の作者である都の錦は、井原西鶴のあとに浮世草子の世界で活動した江戸時代中期の作家です。この作品は盗賊譚を集めた浮世草子で、犯罪そのものに焦点を当てた構成をもつ作品として述べられています。
この段階では、現在の「負うた子より抱いた子」と少し表記が違い、「抱いた子」に当たる部分が「懐(ダイ)た子」と書かれています。「懐」は、ふところに入れる、胸もとに抱くという意味につながる字で、目の前で抱えられている子を示す表現として働いています。
明治時代には、塚原渋柿園の『侠足袋』(1902年)にも「負うた子より抱いた児だ」という形が出てきます。ここでは、死んだ姉よりも生きている親族へ気持ちが向く場面で使われ、身近で生きて関わっている者を先に思う人情が表されています。
この明治の用例では、「負うた子より抱いた児」と、現在の形にかなり近い言い方になっています。古い「負た子より懐た子」という形から、しだいに「負うた子より抱いた子」という分かりやすい表記へ整っていった流れを読み取ることができます。
また、このことわざには「負う子より抱く子」という言い方もあります。いずれも、背に負っている子よりも、腕に抱いて目の前にいる子のほうへ心が向くという同じたとえをもとにしています。
現在では、親子の場面だけでなく、遠くの人より近くの人、直接かかわっている人、今すぐ助けを必要としている人を先に大切にする場合にも使われます。人情のあたたかさを表す一方で、近くにいない人への配慮を忘れやすいという面も含んでいることわざです。
「負うた子より抱いた子」の使い方




「負うた子より抱いた子」の例文
- 祖母は遠くの親戚の心配もしながら、まず同居している孫の世話をし、負うた子より抱いた子というものだと思った。
- 店長は本社からの頼みより、目の前で困っている客を先に助け、負うた子より抱いた子の判断をした。
- 負うた子より抱いた子で、父は遠方の友人よりも病気の母の看病を優先した。
- 近くの支店で人手が足りないと聞き、社長は負うた子より抱いた子として応援の社員を送った。
- 地域の祭りでは、負うた子より抱いた子のように、まず近所の高齢者の安全確認を行った。
- 負うた子より抱いた子という言葉どおり、身近な人を大切にすることから助け合いは始まる。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・都の錦撰『沖津白波』勧楽堂、1702年。
・塚原渋柿園『侠足袋』1902年。
・Cambridge University Press, Cambridge Dictionary, “Charity begins at home.”























