【ことわざ】
追う手を防げば搦め手が回る
【読み方】
おうてをふせげばからめてがまわる
【意味】
一つの災難を逃れても、また別の災難が次々に起こることのたとえ。


【英語】
・Misfortunes never come singly(災難は一つだけでは来ない)
【類義語】
・一難去ってまた一難(いちなんさってまたいちなん)
・前門の虎後門の狼(ぜんもんのとらこうもんのおおかみ)
・虎口を逃れて竜穴に入る(ここうをのがれてりゅうけつにいる)
「追う手を防げば搦め手が回る」の語源・由来
「追う手を防げば搦め手が回る」は、城をめぐる戦いの言葉をもとにしたことわざです。正面から来る敵を防いでも、今度は裏側から別の敵が回ってくるという状況から、一つの災難を逃れても、また次の災難にあうことを表します。
このことわざの「追う手」は、軍事用語の「追手(おうて)」に当たる言い方です。追手は、敵の正面を攻撃する軍勢、または城郭の正門・表門を表し、「大手」と同じ意味で用いられます。
「大手」は、城の正面や正門を指す言葉です。また、敵を正面から攻撃する軍勢も「大手」といい、この意味では「搦手」と対になります。
『平家物語』(鎌倉時代前期成立、作者未詳)には、「大手」と「搦手」を二つの攻め口として分ける用例が出てきます。城や陣を攻めるとき、正面から攻める軍と、別の方向から回る軍を分けて考えていたことが分かります。
「搦め手」は、城や砦の裏門、または陣地の後ろ側を表す言葉です。さらに、城の裏門や敵陣の後ろ側を攻める軍勢、相手が注意を払っていない弱点という意味でも使われます。
「搦手」は古くは「からめで」ともいい、人を捕らえる人、城の裏門、敵の背面を攻める軍勢などの意味をもっていました。『平家物語』には「搦手(カラメデ)」という形の用例があり、『太平記』(南北朝時代、応安年間成立)にも、搦手の軍勢が動く場面が出てきます。
また、『玉葉(ぎょくよう)』(平安時代末期から鎌倉時代初期、九条兼実の日記)の寿永三年二月八日条にも、城の裏門または敵の背面を攻める軍勢を表す「搦手」の古い用例が示されています。武士の戦いを記した時代の文献の中で、「大手」と「搦手」は、攻める方向の違いを表す重要な言葉でした。
このことわざでは、表門を守って正面の攻撃を防いだとしても、敵は裏門や背後へ回って攻めてきます。つまり、一つの危険を防いでも安心できず、別の危険がすぐに現れるというたとえになっています。
近い発想をもつ言葉に「前門の虎後門の狼」があります。これは、表門では虎を防いでも裏門から狼が来るという意味で、一つの危難から身を守っても、さらに別の危難が現れることを表します。
「追う手を防げば搦め手が回る」は、城を攻められる場面を背景にしながら、日常の困難にも広く用いられるようになりました。正面の問題を片づけても、別のところから次の問題が起こるという、気の休まらない状態を言い表すことわざです。
現在では、災害や病気だけでなく、仕事、学校、家庭、金銭、予定の失敗など、困りごとが続けて起こる場面にも使われます。ただし、単に忙しいという意味ではなく、ようやく一つを防いだ直後に、別の困難が回り込んでくるような状況に用いるのがふさわしい言葉です。
「追う手を防げば搦め手が回る」の使い方




「追う手を防げば搦め手が回る」の例文
- 雨漏りを直したと思ったら今度は給湯器が壊れ、追う手を防げば搦め手が回る一日だった。
- 資料の誤字を直した直後に印刷機が止まり、追う手を防げば搦め手が回るような準備になった。
- 風邪が治ったと思ったら足をくじいてしまい、追う手を防げば搦め手が回るとはこのことだ。
- 店の人手不足を何とか補ったところへ配送の遅れが出て、追う手を防げば搦め手が回る状態になった。
- 試合前のけが人問題が片づいた直後に道具の故障が見つかり、追う手を防げば搦め手が回る展開となった。
- 追う手を防げば搦め手が回るように、困難が続く時こそ落ち着いて優先順位を決める必要がある。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・『平家物語』鎌倉時代前期成立。
・『太平記』南北朝時代、応安年間成立。
・九条兼実『玉葉』1164〜1203年。























