【故事成語】
己に如かざる者を友とするなかれ
【読み方】
おのれにしかざるものをともとするなかれ
【意味】
自分より徳や志の劣る者ばかりを友にして満足せず、自分の人格や学びを高めてくれる人を友に選べという戒め。


【英語】
・Have no friends not equal to yourself(自分に及ばない者を友にするな)
【類義語】
・益者三友(えきしゃさんゆう)
【対義語】
・損者三友(そんしゃさんゆう)
「己に如かざる者を友とするなかれ」の故事
この言葉は、『論語(ろんご)』(孔子とその弟子たちの言行を、孔子の没後に門人や後学がまとめた書物)の「学而第一(がくじだいいち)」に出てきます。原文は「主忠信、無友不如己者、過則勿憚改」で、日本では「忠信を主とし、己に如かざる者を友とすること無かれ。過ちては則ち改むるに憚ること勿かれ」と読み下します。
この章では、孔子が君子の学び方を順に説いています。落ち着きと重みをもつこと、学問を確かなものにすること、忠実さと誠実さを根本に置くこと、友を慎重に選ぶこと、そして、過ちを恐れず改めることが、一続きの教えとして述べられています。したがって、「己に如かざる者を友とするなかれ」だけを取り出し、人を広く優劣に分ける言葉として読むのではなく、自分を磨くための友の選び方を説いた一節として受け取る必要があります。
ほぼ同じ教えは、「子罕第九(しかんだいく)」にも「主忠信、毋友不如己者、過則勿憚改」と記されています。「学而」では「無」、「子罕」では「毋」となっていますが、いずれも、ここでは「してはならない」という禁止を表し、日本語では「なかれ」と読みます。古い注釈には、孔子が大切な教えを繰り返したために二度記録されたとする説明と、記録した人が異なったため、重ねて収められたとする説明があります。
魏(ぎ)の時代、三世紀に何晏(かあん)らがまとめた『論語集解(ろんごしっかい)』では、何を心のよりどころとするか、誰を友とするかを慎み、過ちがあれば努めて改めることは、すべて自分を向上させるためであると説いています。また、後の注釈では、「己に如かざる」を、特に「忠信」、すなわち忠実さと誠実さの点で自分に及ばない者と解いています。才能や財産など、人間のあらゆる面を比べて、劣る者を遠ざけよという意味ではありません。
六朝時代の『論語義疏(ろんごぎそ)』に伝わる蔡謨(さいぼ)の説では、友とは志を同じくしようとする相手であり、自分より優れた人の志に近づこうとすれば進歩し、自分より低い志に合わせれば後退すると解いています。ここで友を選ぶとは、能力の同じ者だけを求めることではなく、立派な人を見て、自分もそのようになろうと努めることを指します。
南宋の朱熹(しゅき)は、『論語集注(ろんごしっちゅう)』で、「友は仁を助けるための存在であり、自分に及ばない者では益がなく、かえって損がある」と説きました。さらに、学問は忠信を根本とし、自分より優れた友によって不足を補い、過ちをすぐに改めることで、徳を深めていくものだと述べています。ここでいう「益」や「損」も、金銭上の得失ではなく、人として成長できるかどうかを表しています。
日本でも、この章句は漢文の読み下しを通して広まりました。江戸時代の儒学者である伊藤仁斎は、『論語古義(ろんごこぎ)』(1712年・江戸時代中期)で、友との交わりを、互いに学び合って徳を新たにするためのものとして捉え、朱熹の「友は仁を助ける」という解釈を受け継いでいます。
この故事成語は、弱い立場の人や成績の低い人を見下す教えではありません。自分をほめてくれる人や、自分がいつも優位に立てる相手だけを選んで安心するのではなく、誤りを正直に指摘し、優れたところを学ばせてくれる友を大切にせよ、という自己修養の戒めです。
「己に如かざる者を友とするなかれ」の使い方




「己に如かざる者を友とするなかれ」の例文
- 己に如かざる者を友とするなかれという教えに従い、彼は率直に欠点を指摘してくれる人を友に選んだ。
- 己に如かざる者を友とするなかれは、成績の低い友人を見下せという意味ではない。
- 自分に従う人ばかりを周囲に集める社長の姿を見て、己に如かざる者を友とするなかれという言葉を思い出した。
- 己に如かざる者を友とするなかれを心に留め、彼女は自分より経験豊かな仲間から進んで学んだ。
- 互いに誤りを指摘できる友人関係には、己に如かざる者を友とするなかれの教えが生きている。
- 父は、己に如かざる者を友とするなかれとは、自分を成長させてくれる友を大切にせよという戒めだと話した。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・土田健次郎訳注『論語』筑摩書房、2023年。
・何晏等『論語集解』魏、3世紀。
・皇侃『論語義疏』梁、6世紀。
・朱熹『論語集注』南宋、12世紀。
・伊藤仁斎『論語古義』奎文館、1712年。
・孫路易「『論語集注』(朱熹撰)の日本語訳(學而第一)―『論語集注』を主とする朱子の『論語』解釈―」『岡山大学全学教育・学生支援機構教育研究紀要』第2号、2017年。
・田畑真美「『朋友』について―『仁を輔くる』観点から―」『富山大学人文学部紀要』第70号、2019年。























