【ことわざ】
伯父が甥の草を刈る
【読み方】
おじがおいのくさをかる
【意味】
目上の者が目下の者のために働くような、普通とは逆の役割や順序をたとえた言葉。


【英語】
・a role reversal(役割の逆転)
【類義語】
・寺から里へ(てらからさとへ)
「伯父が甥の草を刈る」の語源・由来
「伯父が甥の草を刈る」は、目上に当たる伯父が、目下に当たる甥のために草刈りをするという、当時の人々にとって順序が逆に思われる情景から生まれたことわざです。ここでいう「伯父」は父母の兄、「甥」は自分の兄弟姉妹の息子を指し、世代や立場の異なる二人を対照させています。
草を刈ることは、鎌などを使って土地の草を取り除く労働です。この具体的な仕事を、年長で目上の伯父が、若く目下の甥のために行うところに、役割の入れ替わりが分かりやすく表されています。大切なのは、伯父が甥に親切にすること自体ではなく、甥が負うはずの仕事まで伯父にさせるという、責任や順序の逆転です。
古い用例は、『毛吹草(けふきぐさ)』(寛永15年〈1638年〉序、正保2年〈1645年〉刊・江戸時代前期、松江重頼編)に出てきます。『毛吹草』は七巻五冊から成る俳書で、俳諧(はいかい)の作法を論じるとともに、句作りに役立つ言葉や言い回し、各地の名物、発句などを集めた書物です。
このことわざは、『毛吹草』巻二の「世話付古語」に、「伯父〔おぢ〕がおいのくさをかる」という形で収められています。「おぢ」は、現在の「おじ」に当たる古い仮名遣いです。語順や言葉の組み立ては、現在の「伯父が甥の草を刈る」とほとんど変わっておらず、江戸時代前期には、すでに今につながる形で用いられていました。
『毛吹草』に収められた段階では、伯父と甥という親族関係を用いて、目上の者が目下の者の仕事をするという、具体的な逆転の情景を表していました。そこから、親族の間だけに限らず、上司が部下の仕事を背負ったり、年長者が年少者の不始末のために奔走したりするなど、本来とは反対の役割になっていることを広く指すようになりました。
「甥の草を舅(しゅうと)が刈る」という別の形も伝わっています。「伯父」が「舅」に替わっても、目上の年長者が目下の者のために働くという組み立ては変わりません。この別形からも、特定の伯父と甥について語る言葉ではなく、人の立場や仕事の順序が逆になることを表すたとえとして定着したことが分かります。
意味の近い「寺から里へ」は、ふつうは里の檀家(だんか)から寺へ金品を贈るところを、反対に寺から檀家へ物を届けることから、物事があべこべになることを表します。「伯父が甥の草を刈る」も同じように、本来向かうはずの働きかけや奉仕の方向が逆になった情景を用いています。
このように、「伯父が甥の草を刈る」は、江戸時代前期から伝わる具体的な生活のたとえが、役割や責任の逆転を表すことわざとして定着したものです。目上の者が進んで手本を示す場面ではなく、目下の者が果たすべき役目を怠り、目上の者に負担を掛けている場面で用いると、ことわざの意味が正確に伝わります。
「伯父が甥の草を刈る」の使い方




「伯父が甥の草を刈る」の例文
- 学級の花壇を児童が放置し、校長が草取りをするとは、まさに伯父が甥の草を刈るだ。
- 成人した甥の引っ越し準備を伯父が一人で進める様子は、伯父が甥の草を刈るというほかなかった。
- 新人が作成すべき資料を部長が徹夜で仕上げるのでは、伯父が甥の草を刈ることになる。
- 若い係員が働かず、年長の会長が会場の椅子を運ぶ姿は、伯父が甥の草を刈るそのものだった。
- 担当者の不手際を社長が一つずつ直して回るとは、伯父が甥の草を刈るような話だ。
- 子どもたちが祭りの後片付けを大人に任せきりにすれば、伯父が甥の草を刈ることになってしまう。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・松江重頼編、新村出校閲、竹内若校訂『毛吹草』岩波書店、1943年。
・Collins『Collins COBUILD Advanced Learner’s Dictionary 第10版』HarperCollins Publishers、2023年。























