【故事成語】
鴨を打って鴛鴦を驚かす
【読み方】
かもをうってえんおうをおどろかす
【意味】
一人を罰したり攻めたりしたために、関係する別の人や罪のない人まで恐れさせ、動揺させること。


「鴨を打って鴛鴦を驚かす」の故事
「鴨を打って鴛鴦を驚かす」は、中国北宋の詩人、梅堯臣(ばいぎょうしん)の詩「莫打鴨」に由来します。梅堯臣は1002年に生まれ、1060年に没した詩人で、日常生活や社会の出来事を題材とする新しい詩風を開きました。
この詩が作られた事情は、北宋後期に魏泰がまとめた『臨漢隱居詩話(りんかんいんきょしわ)』に出てきます。のちに、南宋の胡仔が北宋以前の詩にまつわる話を集めた『漁隠叢話(ぎょいんそうわ)』前集巻三十一にも、その全文が引用されました。
当時、呂士隆という人物が宣州の長官を務めていました。呂士隆は、役所に属し、宴席などで歌や舞を務めていた女性たちを、わずかな過ちでもたびたび鞭打ったといいます。
そこへ杭州から、容姿と芸に優れた一人の女性がやって来ました。呂士隆はその女性を気に入り、宣州に引き留めようとしました。
ある日、もとから宣州にいた女性が、また小さな過ちを犯しました。呂士隆がその女性を鞭打とうとすると、女性は泣きながら、自分は罰を辞退するつもりはないが、杭州から来た女性が不安に思うのではないかと訴えました。
つまり、自分が打たれる姿を見れば、杭州の女性も「ここにいては、自分も同じ目に遭う」と恐れ、宣州を去ってしまうかもしれないというのです。呂士隆はその言葉を聞いて気の毒に思い、女性を罰するのをやめました。
この出来事を聞いた梅堯臣は、「莫打鴨、打鴨驚鴛鴦」と詠みました。「莫」は禁止を表す字ですから、「鴨を打つな。鴨を打てば鴛鴦を驚かせる」という意味になります。
詩はさらに、鴛鴦は新しく池へ舞い降りたばかりであり、孤独な中州にいる年老いた鳥とは違う、と続きます。年老いた鳥でさえ遠くへ飛び去りたがるのだから、長い翼をもつ鴛鴦なら、なおさら飛び去ってしまうだろう、と梅堯臣は表しました。
ここでいう「鴛鴦(えんおう)」は、おしどりのことです。詩では、罰を受ける女性を鴨に、その様子を見て不安になりかねない杭州の女性を美しい鴛鴦に重ねています。
伝わった本文には、「鴛鴦新向池中落」「鴛鴦新向池北落」など、池の場所を表す字に違いがあります。しかし、故事成語の核となった冒頭の「莫打鴨、打鴨驚鴛鴦」は、いずれの本文にも共通しています。
やがて「打鴨驚鴛鴦」は、ある人を罰したことによって別の人まで驚かせることや、罪のない人を巻き添えにすることを表す、まとまった言い方として使われるようになりました。「打鴨驚鴛」と、後半を縮めた形も生まれています。
明代の梅鼎祚の作品『崑崙奴』には、短い形の「打鴨驚鴛」が「打草驚蛇」と並べて使われています。また、凌濛初が1632年に刊行した『二刻拍案驚奇』巻九には、「打鴨驚鴛鴦、分飛各異方」とあり、鴛鴦が驚いて別々の方向へ飛び去る姿が表されています。
日本語では、この中国の表現を「鴨を打って鴛鴦を驚かす」と読み下す形で用います。単に一人を厳しく罰して他の人への見せしめにするというよりも、その処罰によって、関係する人や罪のない人まで恐れ、離れていく事態を表すところに、この故事成語の大切な意味があります。
「鴨を打って鴛鴦を驚かす」の使い方




「鴨を打って鴛鴦を驚かす」の例文
- 一人の失敗を大勢の前で激しく責めたため、鴨を打って鴛鴦を驚かす結果となり、ほかの社員まで萎縮した。
- 部員への重すぎる処分は、入部を考えていた生徒まで遠ざけ、鴨を打って鴛鴦を驚かすことになった。
- 関係者全員を疑うような取り調べは、鴨を打って鴛鴦を驚かすもので、罪のない人々にも不安を与えた。
- 店員一人の小さな失敗に対する店長の怒声が、鴨を打って鴛鴦を驚かすように、新人たちまでおびえさせた。
- 一社だけを狙った厳しい規制が業界全体を混乱させ、鴨を打って鴛鴦を驚かす事態となった。
- 兄を罰するために弟まで仲間外れにするのは、鴨を打って鴛鴦を驚かすような不公平な行いだ。
主な参考文献
・梅堯臣「莫打鴨」11世紀。
・魏泰『臨漢隱居詩話』北宋後期。
・胡仔『苕溪漁隱叢話 前集』1148年。
・梅鼎祚『崑崙奴』明代。
・凌濛初『二刻拍案驚奇』1632年。























