【故事成語】
完膚無きまで
【読み方】
かんぷなきまで
【意味】
無傷の部分がないほどに。徹底的に。残るところなく。


【英語】
・beat someone to a pulp.(人をひどく打ちのめす)
・utterly defeated.(完全に敗れた)
・thoroughly(徹底的に)
【類義語】
・徹底的(てっていてき)
・こてんこてん(こてんこてん)
・とことん(とことん)
・散々(さんざん)
【対義語】
・手加減(てかげん)
・御手柔らか(おてやわらか)
「完膚無きまで」の故事
「完膚無きまで」の「完膚」は、傷のない完全な皮膚、また、傷を受けていない部分を意味します。「完」は欠けたところがないこと、「膚」は皮膚を表し、「完膚なし」は、体に無傷の皮膚が残っていない状態を指します。
この言葉の背景には、中国の史書『新唐書』(北宋、1060年成立、欧陽脩・宋祁ら撰)に出てくる劉乃の話があります。『新唐書』巻一百九十三「忠義下」には、唐の人々の忠義を伝える列伝の中に、劉乃の伝が収められています。
劉乃は字を永夷といい、河南の伊闕の人でした。若いころから記憶力にすぐれ、『六経』をよく読み、文章にもすぐれていた人物として記されています。
唐の徳宗の時代、朱泚が反乱を起こし、皇帝が奉天へ逃れる事件がありました。このとき劉乃は病気で私邸に伏せっており、朱泚は劉乃を自分の側に引き入れようとして、人を遣わしました。
劉乃は重い病であると固く言って、反乱側の招きに応じませんでした。さらに、朱泚の側は、にせの宰相である蔣鎮を遣わしてなだめ、誘おうとしましたが、劉乃は口がきけないふりをして答えませんでした。
そのため劉乃は灸をすえられ、「灸無完膚」と記されるほどの苦しみを受けました。これは、灸による傷で、体に無傷の皮膚が残らないほどであった、という意味です。
蔣鎮は再び訪れましたが、劉乃をおどしても従わせることができないと知り、ついにそれ以上は迫りませんでした。劉乃は、皇帝が梁州へ向かったと聞くと、床に身を投げ、胸を打って天を呼び、食を絶って亡くなったと伝えられています。
この故事では、「完膚なし」は、まず体に傷のない所が残らないほど痛めつけられたという、非常に具体的な意味で使われています。そこから、後には、身体の傷だけでなく、議論・勝負・批評などで相手を徹底的に打ち負かすことを表すようになりました。
日本語では、明治時代の小説にも「完膚なし」という形が出てきます。矢野龍渓の『経国美談』(1883〜1884年・明治時代、矢野龍渓著)には、命は助かっても身に完膚がない、という趣旨の用例があり、肉体に傷が残る意味を保っています。
「完膚無きまで」という形は、夏目漱石の『永日小品』(1909年・明治時代、夏目漱石著)「クレイグ先生」にも出てきます。そこでは、シェイクスピア関係の辞書が一頁残らず書き込みで真黒になっている様子を、「完膚なきまで」と表しています。
この用例では、人の体の傷ではなく、本のページに余白が残らないほど書き込まれた状態を表しています。つまり、「無傷の皮膚がない」というもとの意味が、「手つかずの部分がない」「余地が残らない」という比喩へ広がったことが分かります。
現在では、「完膚無きまでに論破される」「完膚無きまでに打ち負かされる」のように、敗北・批判・攻撃を受ける場面でよく使われます。単なる「完全に」よりも、相手から大きな打撃を受け、立ち直る余地がないほど徹底されるという重い意味をもつ表現です。
「完膚無きまで」の使い方




「完膚無きまで」の例文
- 決勝戦で強豪校に完膚無きまでに敗れ、選手たちは基礎から練習を見直した。
- 発表内容の弱点を完膚無きまでに指摘され、班は資料を作り直すことにした。
- 新商品の企画は会議で完膚無きまでに批判され、発売前に大幅な改善が行われた。
- 相手チームの守備に完膚無きまでに抑え込まれ、こちらは一点も取れなかった。
- 準備不足のまま討論に出たため、彼は完膚無きまでに論破された。
- 予想の甘さを完膚無きまでに打ち砕かれ、会社は計画を根本から立て直した。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2006年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・白川静『字通 普及版』平凡社、2014年。
・欧陽脩・宋祁ら撰『新唐書』1060年。
・矢野龍渓『経国美談』報知社、1883〜1884年。
・夏目漱石『永日小品』1909年。























