【ことわざ】
相手のない喧嘩はできぬ
【読み方】
あいてのないけんかはできぬ
【意味】
相手になる人がいなければ喧嘩は成り立たないので、喧嘩を売られても相手になるなという戒め。


【英語】
・It takes two to make a quarrel.(喧嘩を起こすには二人以上が必要である)
【類義語】
・相手なければ訴訟なし(あいてなければそしょうなし)
【対義語】
・売られた喧嘩は買わねばならぬ(うられたけんかはかわねばならぬ)
「相手のない喧嘩はできぬ」の語源・由来
「相手のない喧嘩はできぬ」は、喧嘩が一人だけでは成り立たないという、日常の経験から生まれたことわざです。相手になる人がいなければ喧嘩にならず、争いの相手になることを戒める言葉として伝わっています。
このことわざの中心には、「相手」と「喧嘩」という二つの言葉があります。「相手」は、物事をともにする一方の人、または働きかけの対象を指し、さらに勝負や争いで向かい合う人を表す言葉としても使われます。
「相手」の古い用例には、『米沢本沙石集』(1283年・鎌倉時代)に出てくる「御相手」の形があります。ここでは、ある人と関わりをもつ相手という意味で使われています。
また、『古今著聞集(ここんちょもんじゅう)』(1254年・鎌倉時代、橘成季編)には、競馬の場面で「合手」と書かれた例が出てきます。ここでは、勝負で向かい合う相手、つまり競争する相手という意味が表れています。
一方、「喧嘩」は、もとは「さわがしいこと」「やかましいこと」を表す意味をもっていました。『菅家後集(かんけこうしゅう)』(903年ごろ・平安時代、菅原道真著)や『将門記(しょうもんき)』(940年ごろ成立か・平安時代)には、騒がしさを表す意味での「喧嘩」「諠譁」が出てきます。
その後、「喧嘩」は、言い争ったり、腕力を用いて争ったりする意味でも使われるようになりました。『類聚三代格(るいじゅうさんだいきゃく)』の大同2年(807年)の記事には、互いに言い分を争う文脈で「諠譁」が用いられ、『太平記』(14世紀後半成立、南北朝時代)にも、不意に起こる争いとして「喧嘩」が出てきます。
このように、「相手」は向かい合う人を、「喧嘩」は言い争いや争いを表す言葉として長く用いられてきました。「相手のない喧嘩はできぬ」は、その二つを結びつけ、争いは一方だけでは始まらないという道理を短く言い表したものです。
表記には、「相手の無い喧嘩はできぬ」「相手のない喧嘩は出来ぬ」のような形があります。「無い」と「ない」、「出来ぬ」と「できぬ」は表記の違いであり、中心となる意味は変わりません。
このことわざに近い考え方として、「相手なければ訴訟なし」という言い方があります。訴訟も争いも、相手がいて初めて成り立つため、相手になる者がいなければ争いは進まない、という点で同じ発想をもっています。
近代の用例では、中里介山の長編小説『大菩薩峠(だいぼさつとうげ)』(1913年連載開始、大正時代〜昭和時代、中里介山著)にも、「相手のない喧嘩はできないのだから」という形が出てきます。ここでは、相手が応じなければ争いは収まるだろうという文脈で用いられています。
『大菩薩峠』の「みちりやの巻」は、作品名・巻名・作者名が明らかに伝わる一巻です。ことわざとしての形は「できぬ」が多く用いられますが、近代の文章では「できない」の形でも、同じ考え方を表しています。
このことわざが伝えるのは、ただ黙って我慢するということではありません。相手の挑発にすぐ応じれば、こちらも争いの一方になり、喧嘩が成り立ってしまうという人間関係の道理です。
現在でも、学校での口論、家庭での言い合い、職場での対立などに使えます。相手の怒りに巻き込まれず、争いを大きくしないために、いったん受け流す知恵を教えることわざです。
「相手のない喧嘩はできぬ」の使い方




「相手のない喧嘩はできぬ」の例文
- 友人に強い口調で責められたが、相手のない喧嘩はできぬと思い、すぐには言い返さなかった。
- 兄がわざと怒らせようとしてきたので、相手のない喧嘩はできぬと考えて部屋を出た。
- 会議で挑発的な発言があったが、相手のない喧嘩はできぬとして、部長は冷静に議題へ戻した。
- 近所の人に嫌味を言われても、母は相手のない喧嘩はできぬと笑って受け流した。
- 部活動で先輩にきついことを言われたが、相手のない喧嘩はできぬと自分に言い聞かせた。
- ネット上の悪口に反応し続ければ争いが広がるため、相手のない喧嘩はできぬという態度が大切だ。
主な参考文献
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・中里介山『大菩薩峠』1913〜1941年。
・公益財団法人日本漢字能力検定協会『漢字ペディア』。























