【ことわざ】
己の欲する所を人に施せ
【読み方】
おのれのほっするところをひとにほどこせ
【意味】
自分が人からしてもらいたいと思うことを、自分も人にしなさいという教え。


【英語】
・Treat others as you would like them to treat you(自分がしてもらいたいように、人にも接しなさい)
【類義語】
・己立たんと欲して人を立たしむ(おのれたたんとほっしてひとをたたしむ)
・己達せんと欲して人を達せしむ(おのれたっせんとほっしてひとをたっせしむ)
「己の欲する所を人に施せ」の語源・由来
「己の欲する所を人に施せ」は、『新約聖書』の『マタイによる福音書(またいによるふくいんしょ)』(1世紀後半ごろ成立)第七章十二節にあるイエスの教えを、簡潔な日本語にまとめた言い方です。この箇所を含む第五章から第七章までは、山の上で語られた教えとして、「山上の説教(さんじょうのせっきょう)」と呼ばれます。
第七章では、イエスが「求めなさい」「探しなさい」「門をたたきなさい」と教え、親が子供に良い物を与えるように、神も求める者に良い物を与えると語ります。そのあとに、「だから、人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい」と続きます。
さらに、その行いについて、「これこそ律法と預言者である」と述べています。「律法と預言者」は、当時の聖書の教えを指す言い方であり、人との正しい関わり方を、この一文にまとめて示しています。
同じ教えは、『ルカによる福音書(るかによるふくいんしょ)』第六章三十一節にも、「人にしてもらいたいと思うことを、人にもしなさい」と出てきます。その前後では、自分を憎む者にも親切にし、呪う者を祝福し、求める者に与えるよう説いており、見返りを待たず、自ら善い行いを始める姿勢が示されています。
この教えは、英語で「Golden Rule」と呼ばれ、日本語では「黄金律(おうごんりつ)」といいます。黄金律とは、人を、自分が扱われたいと思うように扱うという、倫理上の大切な原則を指します。
日本語の「己の欲する所を人に施せ」は、聖書の一節をそのまま訳した文章というよりも、教えの要点を漢文調に整えた表現です。「己」は自分、「欲する所」は自分が望むこと、「施せ」は人に対して行いなさいという意味になります。
近代の用例としては、丘浅次郎の『人類の将来』(1910年・明治時代後期)に、「己の欲する所、之を人に施せ」とあります。ここでは、キリストの教えと孔子の教えとが、人を思いやる根本的な道徳として並べて取り上げられています。
古い用例では、「之を人に施せ」と「之」を入れていますが、見出しとしては「己の欲する所を人に施せ」という形が定着しています。また、「己れの欲する所を人に施せ」と、「己」に送り仮名を添える表記もあります。
このことわざとよく似た教えに、『論語』の「己の欲せざる所は人に施すなかれ」があります。『論語』の言葉は、自分がされたくないことを人にしないよう戒めるのに対し、「己の欲する所を人に施せ」は、自分が受けたいと思う善い行いを、人に向けて実際に行うよう勧めています。
つまり、このことわざは、親切にしてもらうのを待つのではなく、自分から親切にすることを求めています。助けてほしいと思うなら先に人を助け、尊重してほしいと思うなら先に人を尊重するという、積極的な思いやりを表す言葉です。
「己の欲する所を人に施せ」の使い方




「己の欲する所を人に施せ」の例文
- 彼女は己の欲する所を人に施せという教えを守り、困っている転校生に自分から声をかけた。
- 己の欲する所を人に施せを心に留め、兄は家族が疲れているときには進んで家事を手伝った。
- 店長は己の欲する所を人に施せの精神で、新人が質問しやすい職場づくりに努めた。
- 災害の知らせを聞いた住民たちは、己の欲する所を人に施せと考え、必要な物資を被災地へ送った。
- 友人が失敗したとき、己の欲する所を人に施せにならって、責めるより先に励ましの言葉をかけた。
- 己の欲する所を人に施せという姿勢が広がれば、互いに助け合える社会へ近づくだろう。
主な参考文献
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・日本聖書協会『聖書 新共同訳』日本聖書協会、1987年。
・日本聖書協会『聖書 聖書協会共同訳』日本聖書協会、2018年。
・丘浅次郎『人類の将来』1910年。























