【故事成語】
お前追従する者は必ず陰にて謗る
【読み方】
おまえついしょうするものはかならずかげにてそしる
【意味】
人の前でこびへつらう者は、その人のいない所では悪口を言うものだという戒め。


【英語】
・A flatterer is a secret enemy(へつらう者は、隠れた敵である)
【類義語】
・面従腹背(めんじゅうふくはい)
・口に蜜あり腹に剣あり(くちにみつありはらにけんあり)
「お前追従する者は必ず陰にて謗る」の故事
「お前追従する者は必ず陰にて謗る」は、中国・戦国時代の思想書『荘子(そうじ)』(荘周とその後学の著)に由来します。『荘子』は内篇・外篇・雑篇から成り、この言葉のもととなった一節は、雑篇(ざっぺん)の「盗跖(とうせき)」に出てきます。
「盗跖」には、孔子と、伝説上の大盗賊である盗跖との架空の問答が書かれています。孔子は盗跖の兄に、弟を教え導くべきだと説きますが、兄は、盗跖は力にも弁舌にも優れ、逆らえば激しく怒るため説得できないと言って止めます。それでも孔子は、その忠告を聞かず、盗跖のもとへ向かいます。
盗跖は、孔子が来たと知ると激しく怒り、気に入ることを言えば生かすが、逆らえば殺すと告げます。孔子は盗跖の前へ進み、盗跖には、立派な体つき、広い知識、多くの者を率いる勇気という三つの長所があるとほめました。さらに、諸国の王に働きかけて大きな町を造らせ、盗跖を諸侯として敬わせようと申し出ます。
しかし、盗跖は孔子の称賛を喜びませんでした。自分の姿や体つきは父母から受け継いだものであり、孔子にほめられなくても自分で分かっていると答えます。そして、孔子のほめ言葉を、利益を示して自分を従わせようとする企てだと受け止めました。
そこで盗跖は、「好面譽人者、亦好背而毀之」と言います。人を面と向かってほめることを好む者は、背を向けた所では、その人を悪く言うことも好むという意味です。ここから、表では盛んにほめながら、本人のいない所では悪口を言う者の不誠実さを戒める言葉が生まれました。
この場面で問題とされているのは、相手を思いやる真心からの称賛ではありません。孔子は盗跖をほめたあと、地位や領地という利益を示して行動を改めさせようとします。そのため、盗跖は、耳に心地よい言葉の裏に、相手を思いどおりに動かそうとする目的があると見抜いたのです。
日本語では、原文にある「面前でほめること」と「背後で悪く言うこと」との対比を、「前で追従する者は陰で謗る」という形でも表します。「追従」は、相手に気に入られようとしてこびへつらうことを表し、「謗る」は、その人を悪く言って非難することを表しています。
見出しの「お前」は、現代において相手を呼ぶ「お前」ではなく、「御前追従(おまえついしょう)」の「御前」です。「御前追従」は、人の面前でこびへつらうことを意味します。『けいせい伝受紙子(けいせいでんじゅかみこ)』(1710年・江戸時代中期、八文字自笑作・江島其磧代作)にも「御前追蹤」という表記の用例があり、取り巻きが主人の前でへつらうばかりで、その誤りを正さない場面に使われています。
このように、『荘子』にある「面と向かってほめる者は、背後では悪く言う」という言葉が、日本語の「御前追従」と結びつき、「お前追従する者は必ず陰にて謗る」という形になりました。目の前でのほめ言葉だけをうのみにせず、普段の言動に表裏がないかを見極めることの大切さを教える故事成語です。
「お前追従する者は必ず陰にて謗る」の使い方




「お前追従する者は必ず陰にて謗る」の例文
- 先生の前では授業を絶賛し、廊下では悪口を言う態度は、お前追従する者は必ず陰にて謗るそのものだ。
- 友人には何でも賛成しながら、本人が帰ると批判を始める彼に、お前追従する者は必ず陰にて謗るという言葉が当てはまる。
- 祖父の前では庭造りの腕を持ち上げ、帰宅すると笑いものにする親戚を見て、お前追従する者は必ず陰にて謗ると思った。
- 社長には新しい方針をほめながら、社内では欠点ばかり言う社員の姿は、お前追従する者は必ず陰にて謗るという戒めを思わせる。
- 候補者の前では熱心に応援し、陰では評判を落とそうとする者こそ、お前追従する者は必ず陰にて謗るである。
- 父は、耳ざわりのよいお世辞ばかり言う相手を警戒し、お前追従する者は必ず陰にて謗ると家族に話した。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2006年。
・集英社辞典編集部編『会話で使えることわざ辞典』集英社、1989年。
・金谷治訳注『荘子 第四冊 雑篇』岩波書店、1983年。
・八文字自笑作、江島其磧代作『けいせい伝受紙子』1710年。
・Jon R. Stone『The Routledge Book of World Proverbs』Routledge、2006年。























