【故事成語】
愛出ずる者は愛返り、福往く者は福来たる
【読み方】
あいいずるものはあいかえり、ふくゆくものはふくきたる
【意味】
人に愛情や思いやりを向ける者には愛が返り、人に幸福やよいことを与える者には、やがて自分にも福が返ってくるということ。善い行いはめぐって自分に返る、というたとえ。


【英語】
・Love begets love(愛は愛を生む)
・One good turn deserves another(親切には親切で報いるもの)
【類義語】
・情けは人の為ならず(なさけはひとのためならず)
・善因善果(ぜんいんぜんか)
・因果応報(いんがおうほう)
【対義語】
・恩を仇で返す(おんをあだでかえす)
・悪因悪果(あくいんあっか)
「愛出ずる者は愛返り、福往く者は福来たる」の故事
この故事成語は、中国の前漢(ぜんかん)の学者・政治家である賈誼(かぎ)の『新書(しんじょ)』巻六「春秋」に出てくる「故愛出者愛反、福往者福來」にもとづく言葉です。賈誼は前200年から前168年の人物で、『新書』などの著作を残した思想家として知られています。
もとの漢文では「愛反」と書かれていますが、日本語では意味を取りやすくして「愛返り」と読む形で伝えられています。「反」は、ここでは「返る」に近く、こちらから出した愛が相手や世の中を通って自分へ戻ってくる、という流れを表しています。
『新書』のこの場面では、鄒(すう)という国の穆公(ぼくこう)の政治が語られます。穆公は、鳥に食べさせる穀物について、よい粟を使わせず、粃(しいな:実のよく入っていない穀物)を使わせました。
倉に粃がなくなると、役人は民から粃を買うために、二石の粟を出して一石の粃と交換しようとしました。役人は、それなら初めから粟を鳥に食べさせたほうが安いと考えましたが、穆公はそれを退けました。
穆公は、粟は人の大切な食べ物であり、鳥獣のために人の食べ物を使ってはならないと考えました。また、国の倉にある粟を民に移すことは、君主にとって損ではなく、国と民が一体であることを示す行いだと述べています。
この話は、ただ節約をしたという話ではありません。穆公は、目先の費用よりも、民の暮らしを守ることを大事にした君主として描かれています。
さらに、楚王(そおう)から技芸にすぐれた楽人や美女を贈られたときも、穆公は自分の楽しみのために囲いませんでした。その日のうちに、国のために死んだ者の遺児に妻として与えたと書かれています。
穆公は、車や馬、衣服や食事についてもぜいたくを避け、身を慎みました。『新書』は、穆公が賢い人を親しみ、国を安定させ、民を子のように大切にしたため、鄒の国はよく治まったと述べています。
その結果、鄒のような小さな国でも、魯(ろ)や衛(えい)は軽んじることができず、斉(せい)や楚(そ)もおびやかすことができなかったと語られます。これは、国の力を兵や財だけでなく、民との信頼によって支えるという考えにつながっています。
穆公が亡くなると、鄒の民は慈父(じふ:やさしい父)を失ったように悲しみ、三か月も泣きながら歩いたと書かれています。周囲の国境近くの人々まで道で泣き、酒屋は酒を売らず、肉屋は店を閉じ、子どもは歌わず、琴や瑟(しつ:古い弦楽器)の音も一年ほど聞こえなかったと伝えられます。
この深い悲しみのあとに、「故愛出者愛反、福往者福來」と結ばれます。つまり、穆公が民に向けた愛は、民の深い慕いとなって返り、民に与えた福は、国を支える大きな福となって戻った、ということです。
同じ箇所には、『易(えき)』の「鳴鶴在陰、其子和之」という言葉も添えられています。これは、隠れたところで鶴が鳴いても、その子がそれに応じるという意味で、まことのある行いは遠くまで響き、相手の心に応じるものだという考えを重ねています。
この故事成語は、単に「親切にすれば得をする」という計算の言葉ではありません。人を思いやり、相手のために力を尽くす行いは、その場では目立たなくても、信頼や感謝となってめぐり、やがて自分や社会を支える力になる、という教えを表しています。
「愛出ずる者は愛返り、福往く者は福来たる」の使い方




「愛出ずる者は愛返り、福往く者は福来たる」の例文
- 祖母は近所の人にいつも声をかけて助けてきたため、入院したとき多くの人が見舞いに来て、愛出ずる者は愛返り、福往く者は福来たるを思わせた。
- 被災地への支援を続けた町が、のちに災害に遭ったとき全国から助けられ、愛出ずる者は愛返り、福往く者は福来たるという言葉が胸に響いた。
- 友人の勉強を根気よく手伝った兄は、自分が受験で悩んだとき多くの友人に支えられ、愛出ずる者は愛返り、福往く者は福来たるを実感した。
- 部下の成長を親身に支えた上司が、困難な仕事で部下たちから助けられた姿は、愛出ずる者は愛返り、福往く者は福来たるそのものだった。
- 地域の見守り活動を続ける人たちのまわりには自然と感謝が集まり、愛出ずる者は愛返り、福往く者は福来たるという考えが生きている。
- 愛出ずる者は愛返り、福往く者は福来たるは、見返りを求める言葉ではなく、人を思いやる行いがめぐって信頼になることを表す。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『デジタル大辞泉』小学館。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・平凡社編『改訂新版 世界大百科事典』平凡社、2007年。
・賈誼『新書』前漢。























