【故事成語】
足寒ければ心を傷る
【読み方】
あしさむければこころをやぶる
【意味】
足を冷やすと心臓を損なうように、民の不満や苦しみが高まると、国や組織の根本が危うくなること。


【英語】
・Cold feet injure the heart; people’s resentment harms the state.(足の冷えは心を傷つけ、民の不満は国を損なう)
【類義語】
・足寒ければ心を傷む(あしさむければこころをいたむ)
・足寒くして心を痛む(あしさむくしてこころをいたむ)
・禍は下から(わざわいはしもから)
「足寒ければ心を傷る」の故事
この故事成語のもとには、中国の古い政治思想にある「足」と「心」のたとえがあります。足は体を支える下の部分、心は命を保つ中心と見立てられ、下にあるものが傷めば中心も無事ではいられないという考え方が土台になっています。
後漢(ごかん)の学者、荀悦(じゅんえつ)の『申鑑(しんかん)』には、天下国家を一つの体にたとえる説明が出てきます。君主を頭、臣下を股肱(ここう:ももとひじ、転じて大切な家来)、民を手足にたとえ、民が寒さに苦しむなら上に立つ者も安楽だけを尽くしてはならない、という流れの中で「足寒傷心、民寒傷国」と述べられています。
この古い形では、「足が寒ければ心を傷つけ、民が寒ければ国を傷つける」という対句になっています。足の寒さは、単なる体の不調ではなく、民の困窮が国の中心を危うくするという政治のたとえとして置かれています。
その後、この考えは『資治通鑑(しじつがん)』(1084年・北宋、司馬光編)にも、歴史上のいさめの言葉として出てきます。『資治通鑑』は紀元前403年から959年までを扱う編年体の歴史書で、司馬光(しばこう)が長い年月をかけてまとめた書物です。
『資治通鑑』巻二百八十三には、五代十国(ごだいじっこく)の楚(そ)の王、馬希範(ばきはん)の政治が述べられています。馬希範は宮殿や園をぜいたくに造り、費用が足りなくなると税を重くし、民が土地を離れて逃げるほど苦しむ状況を招いています。
その場面で、天策学士(てんさくがくし)の拓跋恆が王に上書し、民の苦しみと国の危険を結びつけていさめます。そこに「諺曰」として「足寒傷心、民怨傷国」とあり、民の怨みが国を傷つけるという形で、この言葉が引用されています。
『申鑑』では「民寒傷国」、『資治通鑑』では「民怨傷国」となっており、表現には違いがあります。前者は民の寒さや困窮を、後者は民の怨みや不満を中心にしているため、どちらも「下で支える民を苦しめると、国そのものが危うくなる」という同じ考えに向かっています。
清代の沈徳潜(しんとくせん)が1719年に編んだ『古詩源(こしげん)』は、先秦から隋までの古い詩や歌謡を集めた総集です。この言葉も古い諺として伝えられ、「足寒傷心、民怨傷国」という簡潔な形で後の時代にも知られるようになりました。
日本語では、この漢文の前半を訓読して「足寒ければ心を傷る」と言います。「傷る」は「やぶる」と読み、ここでは「傷つける」「損なう」という意味で受け取ると分かりやすくなります。
この故事成語は、足を冷やさないようにという養生だけを言うものではありません。国・学校・会社・地域などで、下から支える人々の苦しみや不満を見過ごすと、中心にいる人や全体の仕組みまで危うくなる、という戒めとして読む言葉です。
現在の用法でも、表に立つ人だけでなく、実際に支えている人の声を大切にする必要を表すときに使われます。足が冷えれば心に及ぶように、小さく見える不満も放置すれば全体を揺るがすという点に、この故事成語の力があります。
「足寒ければ心を傷る」の使い方




「足寒ければ心を傷る」の例文
- 生活に困る人々の声を政治が聞き流せば、足寒ければ心を傷るという事態を招く。
- 工場の現場で不満が積もっているのに経営陣が放置すれば、足寒ければ心を傷ることになる。
- 地域の交通が不便になり高齢者の暮らしが苦しくなれば、足寒ければ心を傷るように町全体の活気も失われる。
- 係の負担が一部の生徒に偏ったまま文化祭を進めれば、足寒ければ心を傷るで当日の運営にも支障が出る。
- 住民の不安を軽く見て大きな開発だけを急ぐのは、足寒ければ心を傷るを忘れた進め方だ。
- 支店の社員が疲れ切っているのに本社が数字だけを求めれば、足寒ければ心を傷るように会社全体の信頼が揺らぐ。
主な参考文献
・荀悦『申鑑』後漢。
・司馬光編『資治通鑑』北宋、1084年。
・沈徳潜選『古詩源』竹嘯軒、1719年。























