【ことわざ】
侮る葛に倒さる
【読み方】
あなずるかずらにたおさる
【意味】
相手を軽く見てばかにすると、かえって思いがけない失敗をすること。油断して、不覚を取ることの戒め。


【英語】
・Pride comes/goes before a fall(高慢や過信は失敗を招く)
【類義語】
・卑しむ金木で目を突く(いやしむかなぎでめをつく)
・山に躓かずして垤に躓く(やまにつまずかずしててつにつまずく)
・芋幹で足を衝く(いもがらであしをつく)
【対義語】
・用心に怪我なし(ようじんにけがなし)
「侮る葛に倒さる」の語源・由来
「葛(かずら)」は、ヒカゲノカズラ、テイカカズラ、スイカズラ、サネカズラなどを含む、つる草の総称です。つる草は一本一本を見ると細く、強いものには見えません。しかし、地面を這ったり、木や石にからみついたりするため、歩く人の足を取ることがあります。このことわざは、そうした身近な経験をもとに、「弱そうなものだと侮っていると、思いがけず倒される」という教訓へ広がった表現です。
古い用例としては、室町時代中期の御伽草子『鴉鷺合戦物語(あろかっせんものがたり)』に、「先度の合戦、余に敵をたやすくおもひて、あなづるかづらにたをれす」という形が出てきます。これは、「この前の合戦では、敵をあまりにたやすい相手だと思い、侮った葛に倒されるような不覚を取った」という意味に読めます。
『鴉鷺合戦物語』は、祇園林の烏と糺の森の鷺との争いを、鳥たちの合戦として描く室町時代の御伽草子です。二巻または三巻とされ、一説に一条兼良の作ともいわれますが、著者については未詳です。烏と鷺という鳥を人間の武士のように描く異類軍記物で、合戦の勝敗や慢心、無常の思いが物語の中に織り込まれています。
この物語の中で用いられる「あなづるかづらにたをれす」は、ただ植物の葛につまずいたという話ではありません。相手を軽く見たために、戦いで思わぬ失敗をしたことを、足もとにある葛に倒されるたとえで表しています。大きな山には用心しても、小さなつるには油断するように、人は「たいしたことはない」と思った相手や物事で失敗することがある、という意味がここに重なっています。
後の時代には、「あなづる葛に倒れすな」という近い形も用いられました。藤井乙男『俗諺論 全』(1906年、明治時代)には「あなづり葛に倒れすな」という用例があり、葛のような弱いものと侮って油断するとつまずく、相手を軽く見て不覚を取ることが多いという戒めとして説明されます。
このように、「侮る葛に倒さる」は、実際のつる草に足を取られる経験から、戦いや競争、人間関係にも通じる教訓へと移ったことわざです。目立たないもの、弱そうな相手、小さな問題を軽く見る心こそが失敗のもとになる、という注意を、短く鋭く伝える表現といえます。
「侮る葛に倒さる」の使い方




「侮る葛に倒さる」の例文
- 新人だと思って準備を怠ったら、企画発表で負けてしまい、まさに侮る葛に倒さるだった。
- 小さな店だからと油断していた大会社が、独自の商品力に押され、侮る葛に倒さる結果となった。
- 相手チームを弱いと決めつけた選手たちは、逆転負けをして侮る葛に倒さる思いをした。
- 簡単な計算問題だと見くびって確認しなかったため、侮る葛に倒さるような失点をした。
- 年下の弟を甘く見て将棋を指した兄は、終盤で詰まされ、侮る葛に倒さることになった。
- 小さなほころびを放っておいたら服全体が破れ、侮る葛に倒さるという言葉を思い出した。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・藤井乙男『俗諺論 全』冨山房、1906年。
・『鴉鷺合戦物語』室町時代成立。
・平凡社『改訂新版 世界大百科事典』平凡社、2007年。
・Cambridge University Press『Cambridge Dictionary』。























