【ことわざ】
商人は損していつか倉が建つ
【読み方】
あきんどはそんしていつかくらがたつ
【意味】
損をした、もうからないと言いながら、いつの間にか財産を築くこと。商人の損話は、うのみにできないということ。


【英語】
・plead poverty(お金がないと訴えて、支払いなどを避けようとする)
・poor-mouth(貧しいふりをして、金がないとこぼすこと)
【類義語】
・商人は損と原価で暮らす(あきんどはそんともとでくらす)
・商人の元値(あきんどのもとね)
・商人の空値(あきんどのそらね)
・損と元値で蔵を建て(そんともとねでくらをたて)
【対義語】
・正直の頭に神宿る(しょうじきのこうべにかみやどる)
・正直は一生の宝(しょうじきはいっしょうのたから)
・嘘つきは泥棒の始まり(うそつきはどろぼうのはじまり)
「商人は損していつか倉が建つ」の語源・由来
このことわざのもとにあるのは、商人が口では「損をした」「もうからない」と言いながら、実際には財を増やしていく、という世間の見方です。説明でも、損したと口癖のように言いながら、いつの間にか金持ちになる言い方だとされています。
ここでいう「損」は、本当に赤字だったという話だけではありません。店で「これでは元値が切れる」と言う売り文句や、商売上のこぼしまで含んだ言い方として受け取られてきました。
そのため、このことわざは商人の成功をそのままほめる言葉というより、商人の話を額面どおりには受け取らない、少し皮肉のある言い方です。似た仲間に「商人の元値」「商人の空値」があることからも、その空気がよく分かります。
ただし、このことわざは悪口だけで終わりません。目先の損をのみこんででも、最後には大きな利益につなげるべきだという、商売の知恵として読むこともできると説明されています。
この読み方に近い考えは、「損して得取れ」ということわざにも通じます。こちらは1797年頃(寛政9年頃・江戸時代後期)の『俚言集覧(りげんしゅうらん)』にも見え、一時の損を先の得につなげる発想が、江戸時代のことばの世界にすでに根づいていたことを示しています。
また、よく似た言い方に「商人は損と原価で暮らす」があります。これも、損をしたと言いながら実はしっかり利益を上げている、という意味で使われます。
さらに近い形として、「損と元値で蔵を建て」という言い方も伝わっています。こちらは、「この値段では損だ」「元値を割る」と言いながら、いつの間にか蔵を建てるほど豊かになる、という形で意味がよりはっきり出ています。
「倉が建つ」「蔵を建てる」という部分は、財や品物をしまう建物を持つほど家が栄えることを表しています。口先では苦しいと言っていても、現実には家に財がたまっていく、その落差を目に見える形で言い表した言葉なのです。
1952年(昭和27年・昭和時代)に出た相馬愛蔵『私の小売商道(わたしのこうりしょうどう)』には、「損と元値で蔵を建て」を「昔風」のかけひきとして振り返る一節があります。少なくとも昭和前半までには、この近い言い回しが商売の常套句として広く通じていたことがうかがえます。
こうした近い表現を背景にすると、今の「商人は損していつか倉が建つ」は、より分かりやすく言い直された形として受け取りやすくなります。「損」と「倉が建つ」を向かい合わせにすることで、口先の苦しさと実際の繁盛との差が、ひと目で伝わるからです。
また、「いつか」という言葉にも味わいがあります。今日明日の大もうけではなく、損だとこぼしながらも、長いあいだに一代の身代を築いてしまう、という時間の流れがこの一語にこめられています。
つまり、このことわざは、特定の一人の逸話から生まれたというより、商人の損話と実際のもうけとのずれを、町の人びとが長く見てきた中から育った言い方です。だから今でも、相手の「苦しい」という言葉をそのまま信じない皮肉としても、先を見すえた商売の知恵としても読まれているのです。
「商人は損していつか倉が建つ」の使い方




「商人は損していつか倉が建つ」の例文
- 店主は毎年赤字だとこぼしていたが、新しい倉まで建てたので、まさに商人は損していつか倉が建つである。
- 安売りばかりで苦しいと言っていた問屋が事業を広げたと聞き、商人は損していつか倉が建つということばを思い出した。
- 祭りの出店で損ばかりだと話していた人が、翌年には店を二つに増やしていて、商人は損していつか倉が建つそのものだった。
- 父は近所の八百屋の話を聞くたびに、商人は損していつか倉が建つだから、うのみにするなと言っていた。
- 取引先が原価割れだと何度も強調していたのに、決算では大きく利益を出しており、商人は損していつか倉が建つという見方もできた。
- 町の人たちは、景気が悪いと繰り返しながら店を広げる商家を見て、商人は損していつか倉が建つとささやいた。























