【ことわざ】
余り寒さに風を入る
【読み方】
あまりさむさにかぜをいる
【意味】
困っていることを何とかしようとして、かえって反対のことを行い、事態を悪くするたとえ。寒さを避けたいのに風を入れるような、矛盾した行いをいう。


【英語】
・out of the frying pan into the fire(悪い状況から、さらに悪い状況へ移る)
【類義語】
・火に油を注ぐ(ひにあぶらをそそぐ)
・藪をつついて蛇を出す(やぶをつついてへびをだす)
【対義語】
・転ばぬ先の杖(ころばぬさきのつえ)
・備えあれば憂いなし(そなえあればうれいなし)
「余り寒さに風を入る」の語源・由来
このことわざは、寒さをしのごうとして、かえって風が吹き込むようにしてしまう、という逆向きの行動をもとにしています。寒さを防ぐはずのものを自分で壊してしまえば、少しの間は火にあたれても、そのあとにはもっと寒い風を受けることになります。ここから、困りごとを解決しようとして、逆に困りごとを大きくするたとえになりました。
古い用例として、『御伽草子・福富長者物語(ふくとみちょうじゃものがたり)』(室町時代末期)に、「夜寒の床」を明かしかねた人物が、軒や垣をこのために壊し取り、「あまり寒さの風をいれける」とする一節が出てきます。これは、寒さに耐えられず、風よけになるはずの部分まで燃料にしてしまったため、結果として寒風を招くという場面です。
この話につながる『福富草紙(ふくとみそうし)』は、放屁の芸で成功する翁と、それをまねて失敗する翁を描いた物語として伝わっています。兵庫県立歴史博物館に伝わる甲本は、庶民物の御伽草子に分類される一巻本の系統で、室町時代末期の制作とされています。こうした笑話風の物語の中で、貧しさや困窮をこっけいに描く言い回しとして、この表現が働いていました。
また、この表現は物語だけでなく、室町時代の俳諧連歌とも関わりがあります。『竹馬狂吟集(ちくばきょうぎんしゅう)』や『犬筑波集(いぬつくばしゅう)』などには、「あまり寒さに風を入れけり、賤の女があたりの垣を折りたきて」とある連歌に近い形が伝わります。寒さをまぎらわすために垣を折って燃やす、しかしその垣がなくなれば風が入る、という筋がここにも表れています。
「入る」は、現在の感覚では「入れる」と言いたくなる形ですが、このことわざでは古い言い方として「風を入る」と伝わっています。もとの場面をたどると、ただ「寒い」というだけでなく、寒さから逃れようとして、寒さを防いでいたものを自分で失うところに、このことわざの面白さがあります。
のちには、具体的な寒さの話を離れて、矛盾した行い、または反対のことをしてしまうたとえとして使われるようになりました。さらに日常の使い方では、目先の苦しさにとらわれ、後先を考えずに動いたため、今までより悪い結果になるという意味で受け取られることもあります。
現在の「余り寒さに風を入る」は、寒さを避けるために風を招く、というはっきりした矛盾をたとえにしたことわざです。急いで何かを直そうとするときほど、その方法が本当に助けになるのかを考えなさい、という教えを含んでいるといえます。
「余り寒さに風を入る」の使い方




「余り寒さに風を入る」の例文
- 時間がないのに資料を全部作り直すのは、余り寒さに風を入る行動だ。
- 雨漏りを止めようとして屋根板を外しっぱなしにしたら、余り寒さに風を入ることになる。
- 売り上げを戻そうとして大きな値引きを続け、利益まで失ったのは余り寒さに風を入る例だ。
- 友人関係を直そうとして事情を聞かずに全員へ長いメールを送るのは、余り寒さに風を入るおそれがある。
- あわてて設定をいくつも変えたため、機械がさらに動かなくなり、余り寒さに風を入る結果となった。
- 小さな失敗を隠そうとしてうそを重ねるのは、余り寒さに風を入るものだ。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・兵庫県立歴史博物館『福富草紙-よむ・しる・ながめる-』。
・『福富長者物語』室町時代末期。
・『竹馬狂吟集』1493年。
・山崎宗鑑編『犬筑波集』享禄末〜天文初年ごろ。
・Merriam-Webster, Merriam-Webster.com Dictionary.























