【ことわざ】
跡追う子に引かれる
【読み方】
あとおうこにひかれる
【意味】
親のあとを追う子への愛情に心が引かれ、夫婦としての未練が薄くても、子への愛情から離別を思い切れないこと。


【英語】
・Children are a link between husband and wife(子どもは夫婦をつなぐきずな)
【類義語】
・子は鎹(こはかすがい)
・縁の切れ目は子で繋ぐ(えんのきれめはこでつなぐ)
「跡追う子に引かれる」の語源・由来
「跡追う子に引かれる」の「跡」は、足あとや通っていったしるしを表すだけでなく、去って行った道や方向という意味でも使われます。このことわざでは、親が去ろうとする方向を、幼い子が追ってくる情景が言葉の中心にあります。
「引かれる」は、物理的に引っぱられるだけでなく、心が残って前へ進みにくくなる意味とも結びつきます。近い言い方に「後髪を引かれる」があり、あとに心が残って、思い切ることができないという意味で古くから使われてきました。
このことわざに近い形は、江戸時代中期の人形浄瑠璃・歌舞伎に出てくる表現にも重なります。『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』(1746年・江戸時代中期、竹田出雲・並木千柳・三好松洛・竹田小出雲による合作)は、竹本座で初演された代表的な作品で、親子の別れや忠義を重く描きます。
その「寺入りの段」では、母が小太郎を寺子屋へ預けて出て行こうとします。小太郎が「かゝ様、わしも行きたい」とすがると、母は振り放しながらも、語りには「後追ふ子にも引かさるゝ、振返り見返りて」とあります。母が進もうとしても、あとを追う子の姿に心を引かれ、何度も振り返る場面です。
この場面そのものは、現在のことわざの意味と完全に同じではありません。『菅原伝授手習鑑』では、小太郎が菅秀才の身替りとなる重大な筋へつながり、母の千代もまた、子を思いながら苦しい決断を背負う人物として描かれます。
それでも、「あとを追う子」と「心が引かれる親」という二つの要素は、今のことわざの芯とよく重なります。子どもが親を慕う姿は、親にとって、理屈だけでは断ち切れない強い情を呼び起こします。
のちにこの言葉は、夫婦の縁を子どもがつなぎ止めるという考えと結びついて理解されるようになりました。「子は鎹」と同じく、子への愛情が夫婦の間を保つという発想をもっていますが、「跡追う子に引かれる」は、別れようとする親の心が、子どもの姿によって揺れるところに重きがあります。
「跡追う子に引かれる」の使い方




「跡追う子に引かれる」の例文
- 跡追う子に引かれる思いから、彼女は離婚届を机にしまった。
- 夫への未練は薄れていたが、跡追う子に引かれる心で、母は別居を先送りにした。
- 家庭内の争いが続いても、跡追う子に引かれるために別れを選べない親もいる。
- 幼い子が玄関まで追ってきた姿に、彼女は跡追う子に引かれる気持ちを強くした。
- 友人は夫婦の関係を見直したいと思いながらも、跡追う子に引かれる状態が続いていた。
- 跡追う子に引かれるという言葉は、子への愛情が大きな決断を鈍らせる場面によく当てはまる。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・小学館辞典編集部編『プログレッシブ和英中辞典 第4版』小学館。
・竹田出雲・並木千柳・三好松洛・竹田小出雲『菅原傳授手習鑑』延享3年(1746)初演。























