【故事成語】
葦巣の悔い
【読み方】
いそうのくい
【意味】
落ち着く場所がなく、頼るものもないために、心細く不安であることのたとえ。生活や立場の浮き沈みが激しく、安定しないことにも用いる。


【英語】
・a precarious position(危うく不安定な立場)
・a precarious situation(悪くなりやすい不安定な状況)
【類義語】
・葦末の巣(いまつのす)
・鳰の浮き巣(におのうきす)
【対義語】
・安居楽業(あんきょらくぎょう)
・泰然自若(たいぜんじじゃく)
「葦巣の悔い」の故事
「葦巣の悔い」は、中国の古典『荀子(じゅんし)』の「勧学」にもとづく故事成語です。荀子は中国・戦国時代の趙(ちょう)の思想家で、礼や学びによって人を正しく導くことを重んじました。
『荀子』「勧学」は、学ぶことを途中でやめてはならないという考えを中心に、環境や支えとなるものの大切さを、いくつものたとえで説いています。その中に、南方の鳥である蒙鳩(もうきゅう)が巣を作る話が出てきます。
蒙鳩は、羽を集め、髪の毛で編むようにして、かなり丈夫な巣を作ります。ところが、その巣を結びつけた場所は、しっかりした木の枝ではなく、葦の穂先でした。
原文には、「繫之葦苕,風至苕折,卵破子死」とあります。これは、巣を葦の穂先につなぐと、風が来て葦が折れ、卵は割れ、ひなは死んでしまう、という流れを表しています。
この話で大切なのは、巣そのものが粗末だったわけではない点です。『荀子』は「巢非不完也,所繫者然也」と述べ、巣が不完全だったのではなく、結びつけたものが危うかったのだ、と考えを進めています。
つまり、どれほど自分の力で整えたものがあっても、それを支える土台が弱ければ、危険を避けることはできません。鳥の巣の話は、人がどこに身を置き、どのような人や環境に頼るかを慎重に選ぶべきだという教えにつながっています。
同じ段落には、西方の射干という植物、麻の中に生える蓬、泥の中で黒くなる白い砂などのたとえも続きます。いずれも、ものの性質だけでなく、立つ場所、交わる環境、染まるものによって結果が変わるという考えを示しています。
その結びでは、君子は住む土地を選び、学ぶときにはよい人に近づく、と説いています。これは、正しい場所やよい師友を選ぶことが、よこしまなものを避け、正しい道に近づくために必要だという意味です。
「葦巣」という表現は、この故事の中の、葦に結びつけられた危うい巣をもとにしています。「悔い」は、後から悔やむ気持ちだけでなく、頼るところを誤ったために不安を抱え、落ち着けない状態を含んで受け止めると分かりやすいです。
現在の「葦巣の悔い」は、単なる後悔ではなく、身を置く場所や支えが不安定で、心細く危うい状態をいう表現として使われます。家、生活、仕事、学び、人間関係などで、頼るべき土台が定まらないときに、この故事成語の意味がよく当てはまります。
「葦巣の悔い」の使い方




「葦巣の悔い」の例文
- 川沿いの仮小屋に大切な資料を置く生活は、雨のたびに葦巣の悔いを味わうものだった。
- 相談できる先輩が一人もいない新しい職場で、彼は葦巣の悔いを覚えた。
- 収入の見通しが立たないまま家計を支えるのは、葦巣の悔いに近い心細さがある。
- 避難所の場所も連絡方法も決まっていない地域では、災害時に葦巣の悔いが生じやすい。
- 大事な作品を壊れかけた棚に置き続けるのは、まさに葦巣の悔いを招く行いだ。
- 支えとなる制度が整わないまま仕事を始めれば、働く人は葦巣の悔いを抱えることになる。
主な参考文献
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・飯間浩明編『小学館 四字熟語を知る辞典』小学館、2018年。
・『荀子』戦国時代末期。






















