【ことわざ】
蛆虫も一代
【読み方】
うじむしもいちだい
【意味】
どのような暮らしをしても、一生は一生であるということ。身分・境遇・賢愚などに違いがあっても、誰もがそれぞれ一度の生涯を送ることを表す。


【類義語】
・蛞蝓も一代(なめくじもいちだい)
・蠅取蜘蛛も一生、袋蜘蛛も一生(はえとりぐももいっしょう、ふくろぐももいっしょう)
「蛆虫も一代」の語源・由来
「蛆虫も一代」は、どれほど小さく卑しいものと受け取られがちな蛆虫にも、一つの生涯があるという見立てから生まれたことわざです。そこから、暮らしの良し悪しや身分の高低にかかわらず、一生は一生であるという意味を表すようになりました。
「蛆虫」は、ハエやアブなどの幼虫を指します。腐敗物や汚物などに発生する姿と結び付けられてきたため、日常の言葉では、清潔さや美しさとは遠い存在として扱われることの多い生き物です。
「蛆」という言葉そのものは古く、『古事記』(712年・奈良時代、太安万侶編)には「宇士」の表記で、『日本書紀』(720年・奈良時代、舎人親王ら編)には「虫」の表記で、死体に群がる蛆を述べた例があります。ただし、これらは生き物としての蛆を指す用例であり、「蛆虫も一代」ということわざの直接の用例ではありません。
後の時代には、「蛆虫」が人を卑しめる言葉としても使われました。浄瑠璃『曾我七以呂波(そがななのいろは)』(1698年ごろ・江戸時代前期)には、変化した形である「うづむし共」が、相手をののしる言葉として出てきます。
また、『柳多留(やなぎだる)』百三十三編(1834年・江戸時代後期)にも、人を「うぢ虫」にたとえて卑しめる句があります。このような使い方を背景として、「蛆虫」は、ことわざの中でも、身分や境遇が最も低いものを思わせる強い表現として働いています。
一方、「一代」は、生まれてから死ぬまでの一生涯を表す言葉です。このことわざでは、家の一代や君主の在位期間ではなく、一つの命が送る生涯という意味で使われています。
したがって、「蛆虫も一代」は、蛆虫の幼虫期だけを指す言葉でも、蛆虫が一代限りで絶えるという意味でもありません。「蛆虫であっても、一つの生涯を生きる」というたとえによって、どのような境遇にも一生があることを表しています。
古い掲載例の一つは、神田雄次郎編『万国共通ことわざ集』(1916年・大正時代、福音舎書店刊)に出てきます。この書物は、東西の国々に伝わることわざを集めたもので、国立国会図書館の所蔵資料として伝わっています。
同書では、現在の「蛆虫」に当たる部分を旧字体の「蛆蟲」で書き、「蛆蟲も一代」と掲げています。「蟲」は現在の「虫」に当たる字であるため、「蛆蟲も一代」と「蛆虫も一代」との間に意味の違いはありません。
その説明には、どのような生活も同じく一代であり、貴賤(きせん:身分の高低)や賢愚(けんぐ:賢いことと愚かなこと)の違いがあっても、皆同じ一生であるという趣旨が記されています。ここでは、単に命を大切にするという教えよりも、境遇や能力の違いを越えて、一生という点では変わらないという意味が明確に表れています。
類義の「蛞蝓も一代」も、見栄えのよくない小さな生き物を取り上げ、それにも一代があると言ったものです。また、「蠅取蜘蛛も一生、袋蜘蛛も一生」は、種類や暮らし方が異なっても、それぞれの一生であることに変わりはないという、よく似た考えを表します。
このように、初めにあえて「蛆虫」という卑小なものを置くことで、「そのようなものにさえ一代がある」という意味を強めています。助詞の「も」には、「蛆虫でさえ」という含みがあり、貧富・身分・才能などの違いを越えて、一生を一生として捉える考えを、短く印象深い形にまとめています。
ただし、「蛆虫」は人を卑しめる強い言葉にもなるため、現代の会話で特定の人を蛆虫にたとえる使い方は適切ではありません。古いことわざとして、その時代の価値観や表現の強さを踏まえて用いる必要があります。
「蛆虫も一代」の使い方




「蛆虫も一代」の例文
- 蛆虫も一代というように、豊かな暮らしにも質素な暮らしにも、それぞれ一つの生涯がある。
- 祖父は、他人の境遇をうらやむ私に、蛆虫も一代と静かに語った。
- 蛆虫も一代という言葉は、身分や財産が違っても、一生は一生であることを表す。
- 華やかな生活ばかりを求める若者に、老人は蛆虫も一代と諭した。
- 蛆虫も一代と考えれば、人の暮らしを外から見ただけで軽々しく優劣を付けるべきではない。
- 古いことわざを扱う授業で、蛆虫も一代に込められた人生観を学んだ。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・神田雄次郎編『万国共通ことわざ集』福音舎書店、1916年。























