【ことわざ】
一時の懈怠は一生の懈怠
【読み方】
いちじのけだいはいっしょうのけだい
【意味】
わずかな時の怠け心が、長い人生全体の怠りにつながるという戒め。大事なことを後回しにせず、今すべきことをすぐ行うべきだという意味。


【英語】
・Procrastination is the thief of time(先延ばしは時間を奪う)
【類義語】
・善は急げ(ぜんはいそげ)
・思い立ったが吉日(おもいたったがきちじつ)
・今日できることを明日に延ばすな(きょうできることをあすにのばすな)
【対義語】
・明日は明日の風が吹く(あしたはあしたのかぜがふく)
「一時の懈怠は一生の懈怠」の語源・由来
「一時の懈怠は一生の懈怠」は、鎌倉時代の随筆『徒然草(つれづれぐさ)』(鎌倉時代、吉田兼好著)第百八十八段に出てくる言葉に基づくことわざです。『徒然草』は、随想や見聞をつづった全二百四十四段から成る作品で、主要部分は元弘元年(一三三一)ごろの執筆かとされています。
第百八十八段は、ある人が子を法師にし、説経をして身を立てさせようとした話から始まります。その子は、説経師として招かれた時に馬から落ちては困ると思って馬に乗る練習をし、仏事のあとに酒を勧められた時に芸がないのはよくないと思って早歌も習います。しかし、そうした周辺のことに熱心になるうちに、本来学ぶべき説経を学ぶ時間がなくなり、年を取ってしまいます。
この話の中心にあるのは、「大事なことを後回しにすると、結局は何も成し遂げられない」という考えです。兼好は、若いころには多くの希望を抱いていても、目の前のことにまぎれて月日を過ごすと、上手にもならず、思ったように身を立てることもできないと述べます。そこで、一生のうちでいちばん大切なことをよく考え、それ以外は思い切って捨て、一つのことに励むべきだと説いています。
続いて、碁を打つ人のたとえが出てきます。一手を無駄にせず、小さな利益を捨てて大きな利益を取るように、物事でも少しでも益の多い方を選ぶべきだという説明です。十の石を捨てて十一の石を取るのは、わずかな差であっても惜しさが出て難しいけれど、その小さな判断の差が結果を分けると示しています。
さらに、京に住む人が東山へ急いで行く途中で、西山へ行く方がより有益だと気づいた場合のたとえも示されます。すでに東山の門まで来ていても、西山の用の方が大切なら、そこから引き返して西山へ行くべきだというのです。「ここまで来たから、東山の用を先に済ませよう。西山のことはあとで考えよう」と思うことが、まさに大事を後回しにする心のゆるみになります。
その文脈で、「一時の懈怠すなはち一生の懈怠となる。これをおそるべし」と記されています。ここでいう「一時」は短い時間、「懈怠」はなまけること、怠ることを指します。ほんの一時の怠りが、やがて一生の怠りになるという強い戒めとして、この一節が後にことわざとして用いられるようになりました。
「懈怠」は、もとは仏教の言葉としても使われ、善を修める積極性を欠く心の状態を指しました。また一般には、なまけること、おこたること、怠慢という意味でも使われます。『徒然草』のこの段では、単なる休息ではなく、すべき大事を知りながら後回しにする心の弱さを戒める言葉として働いています。
現在の「一時の懈怠は一生の懈怠」は、勉強や仕事を少し休むことすべてを責める言葉ではありません。大切なのは、今すぐ取り組むべきことを知っていながら、「あとでよい」と軽く考える危うさです。小さな先延ばしが習慣になると、取り返しのつかない遅れや後悔につながるという、時間の使い方への深い注意を伝えることわざです。
「一時の懈怠は一生の懈怠」の使い方




「一時の懈怠は一生の懈怠」の例文
- 受験勉強を今日だけ休もうという甘えが続けば、一時の懈怠は一生の懈怠になりかねない。
- 毎日の発声練習を軽く見ると舞台で声が出なくなるので、一時の懈怠は一生の懈怠と自分に言い聞かせた。
- 歯の痛みを放っておいた父は、一時の懈怠は一生の懈怠だと反省した。
- 安全点検を一度怠っただけで大きな事故につながることもあり、一時の懈怠は一生の懈怠という戒めは重い。
- 資格試験の準備では、一時の懈怠は一生の懈怠と思い、短い時間でも毎日机に向かった。
- 約束の確認を後回しにしたため会議に遅れ、一時の懈怠は一生の懈怠という言葉が身にしみた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・吉田兼好『徒然草』1330〜1331年ごろ成立。
・Elizabeth Knowles編『The Oxford Dictionary of Phrase and Fable』Oxford University Press。























