【故事成語】
間髪を入れず
【読み方】
かん、はつをいれず
【意味】
少しの時間も置かず、すぐに行動するさま。何かが起こった直後に、すかさず反応すること。


【英語】
・immediately(すぐに、ただちに)
・without delay(遅れずに、ただちに)
【類義語】
・即座(そくざ)
・時を移さず(ときをうつさず)
・電光石火(でんこうせっか)
【対義語】
・間を置く(まをおく)
・時を移す(ときをうつす)
「間髪を入れず」の故事
「間髪を入れず」のもとには、中国の古い言い方である「間不容髮」があります。「間」はすきま、「髮」は髪の毛を表し、髪の毛一本さえ入る余地がないほど、すきまがないことを意味します。
この言葉は、前漢の文人である枚乗が、呉王濞をいさめるために書いた文章と深く関わっています。枚乗は、前漢の景帝の時代に呉王濞に仕えましたが、呉王に反乱の志があることを知り、呉を去った人物です。
枚乗の文章は、のちに『文選』(南朝梁、530年ごろ成立、昭明太子蕭統編)に「上書諫呉王」として収められました。『文選』は、周から梁に至る代表的な詩文を集めた、中国の大きな文章集です。
「上書諫呉王」では、呉王が漢に背いて兵を挙げようとする危うさを、細い糸に重いものをかけ、深い淵の上につるすようなものだとたとえます。糸が切れれば、結び直すことも、深い淵から出ることも難しい、という切迫した場面が描かれています。
そのあとに、「其出不出、間不容髮」とあります。これは、助かるか助からないかの分かれ目には、髪の毛一本が入るほどの余地もない、という意味です。
ここでの「間不容髮」は、もともと時間の短さだけでなく、情勢がきわめて差し迫っていることを表していました。危険を避けるには、少しのためらいも許されないという意味合いが強く含まれています。
また、『説苑』(前漢、劉向編)は、君主を戒めるための故事や伝説を集めた書物で、「正諫」を含む二十編から成ります。この言葉は、『説苑』「正諫」とも結びつけられて伝えられています。
日本語では、室町時代の『史記抄』(1477年・室町時代中期、桃源瑞仙著)に、現在の意味に近い用例が出てきます。そこでは、虎や狼を追い、鷹や隼を打つように、急いで行動するさまを説明する文脈で、「間に不容髪急にせよぞ」と述べています。
同じく室町時代の『新撰類聚往来』(1492〜1521年ごろ)にも、間に髪を入れないという形の用例が出てきます。この段階では、すきまのなさを表す具体的な意味が、日本語の文章の中にも取り入れられていました。
さらに、『玉塵抄』(1563年・室町時代、惟高妙安著)には、「まに髪をいれぬ心ぞ」という形が見えます。「間に髪を入れない」という言い方が、漢文の形だけでなく、日本語としても理解されるようになっていたことが分かります。
古くは「間、髪を容れず」と区切って読む形がもとにあり、「間髪」を一語として「かんぱつ」と読むのは本来の読み方ではありません。ただし、現代の表記では、対象語のように「入れず」と書く形も広く使われます。
このように、「間髪を入れず」は、髪の毛一本も入らないほど切迫した状態を表す中国古典の言葉から、少しの時間も置かずにすぐ行うという意味へ広がりました。現在では、質問にすぐ答える、知らせを受けてすぐ動く、危険にすぐ対応するなど、反応の速さを表す故事成語として使われます。
「間髪を入れず」の使い方




「間髪を入れず」の例文
- 先生の問いに、彼は間髪を入れず答えた。
- 警報が鳴ると、係の人は間髪を入れず避難の案内を始めた。
- 友人から助けを求める電話があり、兄は間髪を入れず家を出た。
- 会議で問題点が示されると、担当者は間髪を入れず改善案を出した。
- 転びそうになった妹を、母は間髪を入れず支えた。
- 審判の合図と同時に、選手たちは間髪を入れず走り出した。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2006年。
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・昭明太子蕭統編『文選』南朝梁、530年ごろ。
・劉向編『説苑』前漢。
・Cambridge University Press『Cambridge Dictionary.』























