【ことわざ】
川立ちは川で果てる
【読み方】
かわだちはかわではてる
【意味】
得意な技や慣れたことが、油断のためにかえって失敗や身の破滅のもとになることのたとえ。


【英語】
・Good swimmers are oftenest drowned.(泳ぎの上手な者ほど溺れやすい)
【類義語】
・木登りは木で果てる(きのぼりはきではてる)
・芸は身の仇(げいはみのあだ)
・策士策に溺れる(さくしさくにおぼれる)
・河童の川流れ(かっぱのかわながれ)
【対義語】
・芸は身を助ける(げいはみをたすける)
「川立ちは川で果てる」の語源・由来
「川立ち」は、「川育ち」がつづまった言葉で、川のそばに生まれ育ち、水になじみ、泳ぎのうまい人を指します。水に慣れた人ほど川を軽く見てしまい、その油断が命取りになるという考えが、このことわざの土台にあります。
「川立ちは川で果てる」は、川に慣れた者が、かえって川で命を落とすことが多いという具体的な見方から、得意な技を持つ者も油断すれば、その技によって身を滅ぼすことがあるという教訓を表すようになりました。
古い段階の用例として、17世紀初めの『日葡辞書』(1603〜1604年刊)に、このことわざが記録されています。これは、江戸時代の初めごろには、すでに「得意なことが身を滅ぼすもとになる」という形で使われていたことを示します。
もとの「川立ち」という言葉そのものは、笑話集『醒睡笑(せいすいしょう)』(1623年成立、江戸時代前期、安楽庵策伝著)にも出てきます。そこには「川立ちの上手一人来たり」という形があり、川辺で育って水に慣れた泳ぎ上手を表す言葉として用いられています。
この段階では、「川立ち」はまず、川や水に慣れた人という具体的な意味を持っていました。そこから、よく知っている場所や得意な技ほど油断しやすい、という人生上の戒めへと意味が広がっていきます。
江戸時代中期の浮世草子(うきよぞうし)『浮世親仁形気(うきよおやじかたぎ)』(1720年・江戸時代中期、江島其磧作)には、「誠に川だちは川ではつるといふ世話のごとく、己が好ける道によって身を果すは人間のならひぞかし」とあります。好きで身につけた道によって、かえって身を滅ぼすことがあるという意味で用いられています。
この用例では、実際に川で死ぬ話ではなく、人が自分の好む道によって身を失うという、広い意味でのたとえになっています。つまり、このことわざは、川や泳ぎの話から、芸、仕事、計略、勝負など、得意分野全体に当てはまる言い方へ広がっていたと分かります。
また、「川立ちは川」という短い形も後に使われました。浄瑠璃『田村麿鈴鹿合戦』(1741年・江戸時代中期)には、「川立は川とやら、あの術ゆへに心も直らず」という用例があり、得意な「術」がかえって本人をそこから離れにくくしている場面で使われています。
この短い形には、「川立ちは川で果てる」の省略としての意味と、育ちに合った所へ落ち着くという別の理解がありました。もとのことわざが広く知られていたため、後には一部だけで意味を通じさせる使い方も生まれたといえます。
近代文学では、島崎藤村の『夜明け前』(昭和7〜10年、島崎藤村著)に、「川育ちは川で果てるとも言うじゃありませんか」という形が出てきます。「川立ち」を、より分かりやすい「川育ち」と言い換えた形で用いており、得意な道がその人を危うくするという意味を保っています。
このように、「川立ちは川で果てる」は、川辺に育った泳ぎ上手の油断という具体的な生活感覚から生まれました。そこから、慣れや自信が強いものほど危険を見落としやすい、という教訓を表すことわざとして定着しました。
現在では、水泳に限らず、経験のある仕事、得意な教科、得意なスポーツ、慣れた作業などにも用いられます。得意だからこそ慎重さを失わないことが大切だ、という戒めを、短く力強く伝えることわざです。
「川立ちは川で果てる」の使い方




「川立ちは川で果てる」の例文
- ベテランの運転手が慣れた道で事故を起こし、川立ちは川で果てるという言葉を思い出した。
- 得意の計算問題を見直さずに落としたのは、川立ちは川で果てるの典型だ。
- チームの主将は得意な速球に頼りすぎ、川立ちは川で果てる結果を招いた。
- 長年使っている機械だからと点検を省き、川立ちは川で果てるような故障を起こした。
- 料理が得意な人ほど火加減を軽く見てしまうことがあり、川立ちは川で果てると戒めたい。
- 慣れた仕事で確認を怠ったため、川立ちは川で果てるような失敗になった。
主な参考文献
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・イエズス会編『日葡辞書』1603〜1604年。
・安楽庵策伝『醒睡笑』1623年。
・江島其磧『浮世親仁形気』1720年。
・島崎藤村『夜明け前』1932〜1935年。
・Robert Christy, Proverbs, Maxims and Phrases of All Ages, G. P. Putnam’s Sons, 1893.























