【ことわざ】
鎹思案
【読み方】
かすがいじあん
【意味】
二つの事を両方とも成功させようとする考え。鎹分別ともいう。


【英語】
・have it both ways.(両方のよいところを得ようとする)
【類義語】
・一挙両全(いっきょりょうぜん)
・一挙両得(いっきょりょうとく)
・一石二鳥(いっせきにちょう)
【対義語】
・二兎を追う者は一兎をも得ず(にとをおうものはいっとをもえず)
・虻蜂取らず(あぶはちとらず)
「鎹思案」の語源・由来
「鎹思案」の「鎹」は、材木などの合わせ目をつなぐために打つ、両端の曲がった釘を指します。そこから、二つのものをつなぐはたらきをするもの、という意味にも広がりました。
「思案」は、あれこれと考えめぐらすこと、またその考えを表す言葉です。つまり「鎹思案」は、二つのものをつなぎ止める鎹のように、二つの物事をともに成り立たせようとする考えを表します。
この言葉は、中国古典の故事に由来するものではなく、日本語の中で、鎹という身近な道具の性質をたとえにして生まれた表現です。材木と材木を一つにつなぐ鎹の働きが、「あちらもこちらも手放さない」という発想につながっています。
現在の意味は、「二つの事を両方とも成功させようとする考え」です。似た形として「鎹分別」もあり、ここでいう「分別」は、物事を考え、判断することを表します。
古い用例として、浄瑠璃(じょうるり)『壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)』(1732年・江戸時代中期、文耕堂・長谷川千四合作)に見られます。『壇浦兜軍記』は、五段からなる時代物の浄瑠璃で、大坂竹本座で初演されました。
その用例には、「頼朝に出会(でっくは)さば、本望遂げんと入込みし鎹思案(カスガヒジアン)の抜目なく」とあります。これは、相手に出会えれば本来の望みを遂げようとする、抜け目のない考えを表す場面です。
この古い用例では、「鎹思案」は、ただ欲張るというだけではありません。二つの目的を同時に外さないよう、抜け目なく考えをめぐらす意味合いをもっています。
「鎹」は本来、木材と木材をしっかり留めるための金具です。その具体的な働きが、言葉の中では「二つの物事を同時につなぎ止める考え」という比喩になりました。
このため「鎹思案」は、結果として二つの利益を得る「一挙両得」や「一石二鳥」と近い面があります。ただし、「鎹思案」は、結果そのものよりも、二つの事をどちらも成功させようとする考え方に重きがあります。
一方で、二つを同時にねらえば失敗するという発想を表す言葉には、「二兎を追う者は一兎をも得ず」や「虻蜂取らず」があります。鎹思案は、両方をうまくつなぎ止めようとする前向きな考えを表す反面、無理をすれば失敗につながることもある言葉です。
現在では、仕事と勉強、二つの計画、二人の気持ちなどを、どちらも大切にして成り立たせようとする場面に使われます。鎹という道具の姿から生まれた、古風で少し改まった響きをもつことわざです。
「鎹思案」の使い方




「鎹思案」の例文
- 兄は部活動と受験勉強を両立させようと、鎹思案で一日の予定を組んだ。
- 店長は売り上げを伸ばしながら働く人の負担も減らそうと、鎹思案を重ねた。
- 両家の希望をかなえる結婚式にするため、二人は鎹思案で準備を進めた。
- 地域の自然を守りつつ観光客も呼び込もうとする計画には、鎹思案が必要だ。
- 友人との約束も家族の用事も大切にしたくて、彼は鎹思案の末に時間を分けた。
- 新商品は値段を抑えながら品質も保つという、鎹思案から生まれたものだった。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2006年。
・公益財団法人日本漢字能力検定協会『漢検 漢字ペディア』。
・文耕堂・長谷川千四『壇浦兜軍記』1732年。
・Cambridge University Press『Cambridge Dictionary.』























