【ことわざ】
鰹節を猫に預ける
【読み方】
かつおぶしをねこにあずける
【意味】
猫の大好物である鰹節の番を猫にさせるように、自分の不用意な判断によって災いを招き、かえって悪い結果を助けてしまうこと。


【英語】
・to set the wolf to guard the sheep.(狼に羊の番をさせる、信用できない者に大切な物を任せる)
【類義語】
・盗人に鍵を預ける(ぬすびとにかぎをあずける)
・猫に鰹節(ねこにかつおぶし)
・猫に鰹節の番(ねこにかつおぶしのばん)
「鰹節を猫に預ける」の語源・由来
「鰹節を猫に預ける」は、猫の好物である鰹節を、よりによって猫に番をさせるという見立てから生まれたことわざです。猫が食べたくなる物を猫のそばに置けば、少しも油断できず、過ちが起こりやすい状況になります。
鰹節は、鰹の肉を蒸して干し固め、削って料理にかけたり、だしを取ったりして用いる食品です。日常の食べ物として身近であり、しかも猫の好物として考えられてきたため、このことわざのたとえに用いられました。
この言い方の古い形として、『甲陽軍鑑(こうようぐんかん)』(17世紀初めごろ・江戸時代初期成立の軍学書)に、「猫(ネコ)に鰹(カツヲ)の節(フシ)を預たる」という用例があります。そこでは、取った国や郡を他人の側へ渡すことを、猫に鰹節を預けるようなものだとたとえています。
『甲陽軍鑑』は、武田信玄・勝頼二代の事績、合戦、軍法、武士の心得などを述べた書物です。戦国武士の判断や統率を語る文脈の中で、このたとえは、大事なものを不適切な相手に渡す危険を分かりやすく示しています。
この段階では、現在よく使われる「鰹節を猫に預ける」と完全に同じ語順ではなく、「猫に鰹の節を預ける」という形に近い言い方でした。けれども、鰹節を猫へ預けるという中核の発想は、現在のことわざと同じです。
また、江戸時代には「猫に鰹節の番」という形も使われました。『根南志具佐(ねなしぐさ)』(1763年・江戸時代中期、風来山人作)に関わる形として、「焼鼠を狐に預け、猫に鰹節の番とやらにて、必定、しくじりの番なり」という言い回しが伝わります。
この言い回しでは、焼いた鼠を狐に預けることと、猫に鰹節の番をさせることが並べられています。どちらも、好きでたまらない物を、その誘惑に負けやすい相手へ任せるため、失敗するに決まっているという意味になります。
「預ける」と「番をさせる」は、どちらも相手を信用して物事を任せる行為です。しかし、このことわざでは、その信用の置き方がそもそも間違っているため、失敗の責任は猫だけでなく、猫に鰹節を預けた人にも向けられます。
後には、「猫に鰹節」という短い形でも定着しました。この短い形も、当人の好物を預けたり、わざわざそばに置いたりして、あやまちが起こりやすい状況を作ることを表します。
現在の「鰹節を猫に預ける」は、食べ物だけに限らず、任せてはいけない人に大切な物や役目を任せる場合にも使われます。相手の性質を考えずに任せると、自分の不用意さによって災いを招く、という教えがこのことわざの核心です。
「鰹節を猫に預ける」の使い方




「鰹節を猫に預ける」の例文
- 甘い物に目がない弟に誕生日ケーキを預けるのは、鰹節を猫に預けるようなものだ。
- 金づかいの荒い人に会計を任せるのは、鰹節を猫に預けるに等しい。
- 秘密をすぐ話してしまう友人に相談内容を伝えるのは、鰹節を猫に預けるようで危ない。
- 漫画好きの兄に新刊を預けたら読みの先を越され、まさに鰹節を猫に預ける結果になった。
- 菓子を食べたい子どもに留守番中の菓子箱を任せるのは、鰹節を猫に預けるというものだ。
- 不正のうわさがある担当者に金庫の管理を任せるなど、鰹節を猫に預ける判断は避けるべきだ。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・集英社辞典編集部編『会話で使えることわざ辞典』集英社、1989年。
・『甲陽軍鑑』江戸時代初期。
・風来山人『根南志具佐』岡本利兵衛、1763年。























