【ことわざ】
可愛い子には旅をさせよ
【読み方】
かわいいこにはたびをさせよ
【意味】
子どもがかわいければ、甘やかして守るだけでなく、世間に出してつらさや苦労を経験させるほうがよい、という教え。


【英語】
・Spare the rod and spoil the child.(しつけを怠ると子どものためにならない)
【類義語】
・獅子の子落とし(ししのこおとし)
・若い時の苦労は買うてもせよ(わかいときのくろうはこうてもせよ)
【対義語】
・乳母日傘(おんばひがさ)
「可愛い子には旅をさせよ」の語源・由来
「可愛い子には旅をさせよ」は、子どもを思う愛情を、ただ守ることではなく、苦労を経験させることに結びつけたことわざです。近代以前の旅は、徒歩を基本とする長い道中であり、難所や治安の悪い場所もあったため、現代の観光旅行とは大きく異なるものでした。
このことわざの背景には、「旅は憂いもの辛いもの」という考えがあります。旅は楽しい見物だけではなく、不便や不安をともなう経験であったため、子どもをあえて旅に出すことは、世間の厳しさを知り、自分の力を育てることにつながると考えられました。
古い形として、『北条氏直時代諺留(ほうじょううじなおじぶんことわざとめ)』(1599年ごろ・戦国時代)には、「かわゆき子には旅をさせよ」という形が伝わります。題名の読みは「ホウジョウ ウジナオ ジブン コトワザトメ」と記録されており、戦国時代のことわざ資料に近い表現があったことが分かります。
江戸時代前期の俳諧論書『毛吹草(けふきぐさ)』(1645年刊、松江重頼編)にも、「いとおしき子には旅をさせよ」という形が出てきます。『毛吹草』は俳諧の作法書であり、撰集も兼ねた書物で、巻二には世話・俚諺に関わる言葉も収められています。
「いとおしき」は、かわいく思う、大切に思うという意味につながる言葉です。この段階では、現在の「可愛い子」という形そのものではなくても、愛する子にこそ旅をさせるという考えが、すでにほぼ同じ骨組みで使われていました。
さらに、仮名草子『好色袖鑑』(1682年・江戸時代前期)下には、「うき世のたとへにも、いとしき子には旅をさせよといふも、よろづうき無常を思ひしるは、たびのそらなり」とあります。ここでは、旅の空に身を置くことで、世の中のつらさや無常を知るという文脈で使われています。
江戸時代中期の雑俳『へらず口』(1734年、不及子編)には、「かはい子に旅(タビ)は心のさはし柿」という句が出てきます。「さはし柿」は、渋を抜いた柿を指す言葉で、旅の苦労が子どもの心を鍛え、未熟さを整えるものとしてたとえられています。
このように、古い用例では「かわゆき子」「いとおしき子」「いとしき子」「かはい子」など、表記や言い方に少しずつ違いがあります。しかし、愛する子を親元で甘やかし続けるのではなく、あえて外の世界で苦労を経験させるという考えは一貫しています。
近代にも、このことわざはよく知られた言い方として使われました。中勘助の『銀の匙』(1913〜1915年)には「可愛い子には旅をさせろ」という形があり、菊池寛の『小説家たらんとする青年に与う』(1923年)では、若い時代に人生の辛酸を味わうことの大切さを述べる文脈で用いられています。
現在の「可愛い子には旅をさせよ」は、実際に旅行へ行かせることだけを意味しません。親元や安全な場所から少し離れ、他人の中で考え、失敗し、責任をもって行動する経験を積ませることを表します。
このことわざは、子どもを突き放す言葉ではありません。大切に思うからこそ、将来の力になる経験をあえて与えるという、厳しさを含んだ愛情を表す言葉です。
「可愛い子には旅をさせよ」の使い方




「可愛い子には旅をさせよ」の例文
- 可愛い子には旅をさせよという考えから、父は息子に一人で合宿の準備をさせた。
- 母は心配しながらも、可愛い子には旅をさせよと思い、娘の短期留学を見送った。
- 新人に難しい仕事を任せるのは、可愛い子には旅をさせよという先輩の思いやりでもある。
- 祖父は、可愛い子には旅をさせよと言って、孫に町内会の手伝いを一人で頼んだ。
- 可愛い子には旅をさせよとは、子どもを放っておくことではなく、成長に必要な経験をさせることをいう。
- 先生は、可愛い子には旅をさせよの気持ちで、生徒だけで話し合いを進めさせた。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・集英社辞典編集部編『会話で使えることわざ辞典』集英社、1989年。
・『北条氏直時代諺留』1599年ごろ。
・松江重頼編『毛吹草』1645年。
・『好色袖鑑』1682年。
・不及子編『俳諧へらず口』1734年。
・中勘助『銀の匙』1913〜1915年。























