【ことわざ】
可愛い子には旅をさせよ
【読み方】
かわいいこにはたびをさせよ
【意味】
子どもを本当に大切に思うなら、甘やかすだけでなく、世の中の苦労や経験を積ませるのがよいというたとえ。


【英語】
・Spare the rod and spoil the child(厳しくしつけなければ子どものためにならない)
・Experience is the best teacher(経験こそ最良の教師)
・No pain, no gain(苦労なくして得るものなし)
【類義語】
・獅子の子落とし(ししのこおとし)
・いとおしき子には旅をさせよ(いとおしきこにはたびをさせよ)
・可愛い子は棒で育てよ(かわいいこはぼうでそだてよ)
【対義語】
・温室育ち(おんしつそだち)
「可愛い子には旅をさせよ」の語源・由来
「可愛い子には旅をさせよ」は、中国の古い出来事に由来する表現ではなく、日本で受け継がれてきたことわざです。中心にあるのは、「旅」を単なる楽しみの旅行ではなく、親元を離れて世の中のつらさを知る経験としてとらえる考え方です。
昔の旅は、現代のように交通や宿泊のしくみが整ったものではありませんでした。江戸時代の旅人は一日におよそ三十二〜四十キロメートルを歩くこともあり、宿場の間隔や日暮れまでの到着も大きな負担になりました。そうした背景を考えると、このことわざの「旅」は、楽しい見物ではなく、体力・判断力・忍耐を必要とする経験を指していたことが分かります。
古い形として、『北条氏直時代諺留(ほうじょううじなおじぶんことわざとめ)』(1599年ごろ)には、「かわゆき子には旅をさせよ」に当たる言い方が伝えられています。題名の読みは「ほうじょううじなおじぶんことわざとめ」とされ、ことわざを集めた書として扱われています。
江戸時代前期の俳諧書『毛吹草(けふきぐさ)』(1638年序、松江重頼編)には、「いとおしき子には旅をさせよ」という形が出てきます。「いとおしき」は、かわいく思う、大切に思うという意味につながる言葉で、現在の「可愛い子」と同じ発想を表しています。
この段階では、「可愛い子」という現代の言い方だけでなく、「かわゆき子」「いとおしき子」といった表現が使われていました。表し方は少しずつ違っても、愛する子を手元で守り続けるだけでなく、あえて外の世界に出して経験を積ませるほうが、その子のためになるという考えは一貫しています。
江戸時代中期の雑俳『へらず口』(1734年、不及子編)には、「かはい子に旅は心のさはし柿」という句が出てきます。「さはし柿」は、渋を抜いた柿を指す言葉です。ここでは、旅の苦労が子どもの心に働きかけ、未熟さを少しずつ整えるものとして言い表されています。
さらに、咄本『軽口若夷(かるくちわかえびす)』(1742年、梅岸著)には、「かわゆひ子はたびをさせ」という形に続いて、若い時から「ういめつらいめ」にも合わせたほうがよい、という趣旨の言葉が出てきます。これは、かわいいからこそ苦労を避けさせるのではなく、早いうちに世の中の厳しさを経験させるのがよい、という教えを分かりやすく述べたものです。
近代にも、このことわざはよく知られた言い方として使われました。中勘助『銀の匙』(1913〜1915年)には、「可愛い子には旅をさせろ」という形が出てきます。ここでは、父が子を旅に出す場面に結びついており、家庭の教育観を表す言葉として用いられています。
このように、「可愛い子には旅をさせよ」は、古くは「かわゆき子」「いとおしき子」という形でも伝わり、江戸時代を通して、子どもを思うなら苦労を経験させよという教えとして定着しました。現在の意味もその流れを受け継ぎ、愛情とは甘やかすことだけではなく、将来のために経験を積ませることでもある、という考えを表しています。
「可愛い子には旅をさせよ」の使い方




「可愛い子には旅をさせよ」の例文
- 父は心配しながらも、可愛い子には旅をさせよと考え、息子に一人で祖父母の家まで行かせた。
- 母は宿題の調べ物を手伝いすぎず、可愛い子には旅をさせよの気持ちで、娘に図書館で資料を探させた。
- 部活動の合宿で初めて洗濯や荷物の管理を自分でした経験は、可愛い子には旅をさせよという教えに合っていた。
- 先生は班長の役目を失敗しそうな児童にも任せ、可愛い子には旅をさせよの考えで見守った。
- 祖父は孫を甘やかすより畑仕事を手伝わせ、可愛い子には旅をさせよと言って汗を流す大切さを教えた。
- 新入社員をすぐに助けず、先輩は可愛い子には旅をさせよの思いで、まず本人に取引先への説明を任せた。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・『プログレッシブ和英中辞典 第4版』小学館、2011年。
・『北条氏直時代諺留』1599年ごろ。
・松江重頼編『毛吹草』1638年序。
・不及子編『へらず口』1734年。
・梅岸『軽口若夷』1742年。
・中勘助『銀の匙』1913〜1915年。























