【ことわざ】
傷持つ足の下り坂
【読み方】
きずもつあしのくだりざか
【意味】
やましいことがある者は、もともと落ち着かず逃げ腰なのに、状況が悪くなるとすぐ逃げ出すこと。


【英語】
・A guilty conscience needs no accuser.(やましい心は、責める人がいなくても自分をおびえさせる)
【類義語】
・脛に疵持つ(すねにきずもつ)
・脛に疵持てば笹原走る(すねにきずもてばささはらはしる)
・心の鬼が身を責める(こころのおにがみをせめる)
【対義語】
・身に覚えがない(みにおぼえがない)
「傷持つ足の下り坂」の語源・由来
「傷持つ足の下り坂」は、「傷持つ足」という古くからの言い方に、「下り坂」という具体的な場面を重ねたことわざです。「傷持つ足」は、罪や後ろ暗いことを抱えているために、恐ろしく、不安で落ち着かないことを表します。ここでいう「傷」は、足のけがだけでなく、人に知られたくない過去や心の弱みをたとえる言葉として働いています。
「傷持つ足」の古い用例として、『義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)』(1747年・江戸時代中期、二世竹田出雲・三好松洛・並木千柳作)三段目に、「疵持つ足の裏」という形が出てきます。この作品は時代物の浄瑠璃(じょうるり)で、延享4年(1747)に大坂の竹本座で初演されました。
その場面では、親子が銀を隠す騒ぎの最中に、父親の弥左衛門があわてて門口へ来ます。「疵持つ足の裏」という言い方は、足そのもののけがを細かく説明するためではなく、心にひっかかる事情を持つ人が、急な出来事にうろたえる様子を強める比喩として使われています。
近い発想のことわざに、「脛に疵持てば笹原走る」があります。これは、すねに傷がある人は笹の葉が触れると痛むため落ち着いて歩けず、また、やましいことのある人は笹の葉音にまでおびえて小走りに逃げる、というたとえです。『南閨雑話(なんけいざつわ)』(1773年・江戸時代中期、夢中山人作)にも、この形に近い言い方が出てきます。
「傷持つ足の下り坂」は、この「傷を持つ足は落ち着いて歩けない」という比喩を、さらに分かりやすくした言い方です。下り坂では、足を踏み出すと勢いがつき、止まるよりも前へ進むほうへ体が傾きます。そのため、もともと不安で逃げ腰の人が不利な状況に出会い、ますます逃げ出しやすくなる様子をよく表します。
古い用例では「疵」と書く形が目立ちますが、現代では「傷持つ足」と書く形も用いられます。表記は変わっても、言葉の芯は、後ろ暗いことを抱えた人の心細さと、少しのきっかけで逃げようとする態度を示す点にあります。
「傷持つ足の下り坂」の使い方




「傷持つ足の下り坂」の例文
- 備品を壊したことを隠していた係員は、点検の話が出た途端、傷持つ足の下り坂で部屋を出た。
- 不正を疑われる前から資料を片づけ始めた様子は、まさに傷持つ足の下り坂だ。
- 友人のノートを無断で借りた彼は、先生がその話題に触れると、傷持つ足の下り坂のように顔をそむけた。
- 会計の数字をごまかしていた担当者は、監査が入ると傷持つ足の下り坂で連絡を断った。
- 秘密にしていた失敗が知られそうになり、弟は傷持つ足の下り坂で自分の部屋へ逃げ込んだ。
- 傷持つ足の下り坂というように、後ろめたいことがある人ほど、何気ない質問にも過敏に反応する。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・竹田出雲・三好松洛・並木千柳『義経千本桜』1747年。
・夢中山人『南閨雑話』1773年。
・Jennifer Speake編『The Oxford Dictionary of Proverbs, 6th ed.』Oxford University Press、2015.























