【ことわざ】
疵に玉
【読み方】
きずにたま
【意味】
欠点の多いものの中に、少しだけよい所があること。「玉に瑕」を逆に言った表現。


【英語】
・the only redeeming feature.(欠点の多いものを補う、ただ一つの取りえ)
【対義語】
・玉に瑕(たまにきず)
「疵に玉」の語源・由来
「疵に玉」は、「玉に瑕」という古くからの言い方を、言葉の順序と意味の両方において逆にしたことわざです。「玉に瑕」が、優れたものの中にわずかな欠点があることを表すのに対し、「疵に玉」は、欠点の多いものの中にわずかな美点があることを表します。
「玉」は、もともと美しく価値のある宝石を指し、優れた人物や立派な物事のたとえにもなります。一方、「瑕」や「疵」は、物についたきずから意味が広がり、人物や物事の欠点を表します。とくに「瑕」は、玉についた小さなきずを表す字です。
もとになった「玉に瑕」は、日本では、『源氏物語(げんじものがたり)』(11世紀初め成立・平安時代中期、紫式部著)の「手習」に、すでに用例があります。そこには、「あたら御身をいみじう沈みもてなさせ給こそくちをしう、玉にきずあらん心地し侍れ」とあり、優れた人が自らを深く沈ませていることを、立派な玉に惜しいきずがあるようなものだと述べています。
このように、「玉に瑕」は、ほとんど申し分のないものに、一つだけ惜しい欠点があるという意味で、早くから日本語の中に根づいていました。「疵に玉」は、そのよく知られた形を裏返すことによって、欠点ばかりの中に一つだけ長所があるという正反対の意味を、印象深く表したものです。
古い用例は、『誹風柳多留(はいふうやなぎだる)』第三十五篇(1806年・江戸時代後期)に出てきます。『誹風柳多留』は、江戸の人情や世相を、五・七・五の短い言葉で機知豊かに詠んだ川柳の代表的な句集で、1765年から1840年にかけて刊行されました。
その句には、「もみ上げの長ひのが下女疵に玉」とあります。下女について、ほかには取り立てて褒める所がない中で、もみ上げが長いことだけを美点として挙げ、「疵に玉」と評した句です。「玉に瑕」の語順を逆転させた言葉遊びによって、たった一つの長所を、こっけいに際立たせています。
この古い用例では、現在の見出しに使われることのある「瑕」ではなく、「疵」の字を用いて、「疵に玉」と記されています。「疵」と「瑕」は、どちらも「きず」や「欠点」を表すため、このことわざには、「疵に玉」と「瑕に玉」の両方の表記があります。
「疵に玉」は、よい所を褒めることだけを目的とした言葉ではありません。全体としては欠点が多いという評価を前提とし、その中に一つだけ、救いとなる長所があることを表します。そのため、人について用いるときには、厳しい批評となる場合があり、相手や場面への配慮が必要です。
このように、「疵に玉」は、古くから使われてきた「玉に瑕」を巧みに逆転させて生まれました。美点の中の小さな欠点ではなく、欠点の中の小さな美点を表すことで、全体としてはよくないものの、一つだけは認められる所があるという意味を、簡潔に伝えることわざです。
「疵に玉」の使い方




「疵に玉」の例文
- 筋書きも演技もまとまりに欠ける映画だったが、美しい音楽だけは疵に玉だった。
- 使いにくく故障も多い機械にあって、消費電力の少なさだけが疵に玉となっている。
- 問題点ばかりの企画書だが、地域の高齢者を支えるという着想は疵に玉だ。
- 料理も接客も評判の悪い店で、窓からの眺めだけが疵に玉だった。
- 内容の乏しい報告書の中で、最後に示された統計資料は疵に玉といえる。
- 欠点の多い制度ではあるが、申請手続きが簡単な点だけは疵に玉だ。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・呉陵軒可有ほか編『誹風柳多留』1765〜1840年。
・紫式部『源氏物語』11世紀初め成立。























