【ことわざ】
切り株にも衣装
【読み方】
きりかぶにもいしょう
【意味】
つまらないものでも、外見を飾れば立派に見えるということ。


【英語】
・Fine feathers make fine birds.(美しい装いが人を立派に見せる)
【類義語】
・馬子にも衣装(まごにもいしょう)
・人形にも衣装(にんぎょうにもいしょう)
・鬼瓦にも化粧(おにがわらにもけしょう)
【対義語】
・衣ばかりで和尚はできぬ(ころもばかりでおしょうはできぬ)
「切り株にも衣装」の語源・由来
「切り株」は、木や草を切ったり刈ったりしたあとに残る、根元の部分を指します。枝や葉を失った木の根元は、華やかさがなく、飾り気に乏しいものの代表として捉えられます。
その切り株に立派な衣装を着せるという、現実にはありそうもない情景を思い浮かべたのが「切り株にも衣装」です。何の変哲もない切り株でさえ、きれいに飾れば立派に見えるという、少し大げさでユーモラスなたとえになっています。
この表現の背景には、衣装や化粧によって人や物の見え方が変わることを表した、古くからのことわざがあります。主となるものを入れ替えながら、「見栄えのしないものでも、外側を整えればよく見える」という同じ発想を伝えてきました。
江戸時代前期の俳諧書『毛吹草(けふきぐさ)』(1638年序、松江重頼編)には、「鬼瓦にも化粧」という言い方が出てきます。初出の句は「朝霜は鬼瓦にも化粧かな〈俊安〉」で、いかつい鬼瓦も白い朝霜に覆われると、まるで化粧を施したように見える情景を詠んでいます。
同じ『毛吹草』には、「人形にも衣装」も収められています。この言い方は、同じ人形であっても、着せる衣装によって見え方が変わることから、人も身なりを整えれば立派に見えることを表します。
さらに、仮名草子(かなぞうし)の『悔草(くやみぐさ)』(1647年・江戸時代前期)には、「人形も衣裳からといへり」とあります。そのあとには、女性も装いをよくすれば美しさが増すという内容が続き、衣装が外見に与える働きを、人の身なりに重ねています。
江戸時代後期になると、太田全斎が俗語やことわざを集めた『諺苑(げんえん)』(1797年成立)に、「馬子にも衣装」が収められました。馬を引いて荷物や人を運んだ馬子であっても、立派な衣装を着れば見違えるという意味で、現在も広く知られることわざです。
『諺苑』を増補して作られた『俚言集覧(りげんしゅうらん)』にも、「馬子にも衣装」が伝わっています。『俚言集覧』は、俗語・方言・ことわざを集めた書物であり、この時代には、衣装によって外見が引き立つことを表す言い方が広く定着していたことが分かります。
「鬼瓦」「人形」「馬子」「切り株」は、それぞれ異なるものですが、言葉の組み立て方はよく似ています。もとのままでは立派に見えにくいものを最初に示し、それに「化粧」や「衣装」を取り合わせることで、外側を整える効果を強く印象づけています。
なかでも「切り株にも衣装」は、人間ではなく、地面に残った木の根元をたとえに用いています。切り株ほど飾り気のないものでさえ、衣装しだいでよく見えるという形にすることで、装いの力をいっそう大きく表した言い方です。
ただし、このことわざは、外見を整えれば中身まで立派になるという意味ではありません。変わるのは、あくまで人の目に映る姿や印象であり、実質とは別のものです。その点を反対側から表すのが、「衣ばかりで和尚はできぬ」ということわざです。
また、「つまらないものでも」という意味を含むため、人に向かって直接使うと、相手をもともと価値の低い人と見なすような響きを帯びます。自分自身を控えめに評するときや、古い道具、質素な会場、簡単な料理などが、飾り方によって見違えた場面に用いると、意味が伝わりやすいことわざです。
「切り株にも衣装」の使い方




「切り株にも衣装」の例文
- 文化祭の古い展示台も布と花で整えると、切り株にも衣装で見違えるほど立派になった。
- 祖母は傷のある木箱をきれいな紙で包み、切り株にも衣装と笑いながら小物入れに仕立てた。
- 質素な菓子でも器と盛り付けを工夫すれば、切り株にも衣装で祝いの席にふさわしくなる。
- 町内会は古びた集会所の入口を飾り、切り株にも衣装で明るい会場に変えた。
- 商品の包装を改めたところ、切り株にも衣装というように、店頭で人目を引くようになった。
- 簡素な舞台でも照明と背景を整えれば、切り株にも衣装で堂々とした空間になる。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・Jennifer Speake編『The Oxford Dictionary of Proverbs, Sixth Edition』Oxford University Press,2015.
・松江重頼編『毛吹草』1638年序。
・『悔草』1647年。
・太田全斎『諺苑』1797年。























