【ことわざ】
食おうとて痩せる
【読み方】
くおうとてやせる
【意味】
食べて暮らすために働きながら、その苦労のために、かえって痩せるほど心身をすり減らすこと。生活のための努力が、目的とは反対の結果を招く矛盾を皮肉る言い方。


【英語】
・work one’s fingers to the bone just to make ends meet.(生計を立てるために身を粉にして働く)
【類義語】
・口に使われる(くちにつかわれる)
・口ゆえに使われる(くちゆえにつかわれる)
「食おうとて痩せる」の語源・由来
「食おうとて痩せる」は、「食べて生きていくために働くのに、その苦労によって、かえって痩せてしまう」という食い違いを、一続きの短い言葉にまとめたものです。「食おう」が働く目的を示し、「痩せる」がその目的とは反対の結果を示すため、暮らしの苦しさを、強い皮肉を込めて表します。
明治39年(1906年)、熊代彦太郎が編み、幸田露伴が閲した『俚諺辞典(りげんじてん)』の巻末にある追加項目には、「食はうとて痩せる。糊口の為に心身を勞するをいふ。」とあります。現在の「食おう」に当たる部分を「食はう」と書き、食べて暮らすために心と体を使い、苦労することだと示しています。
ここでいう「糊口(ここう)」は、もとは薄い粥をすすって飢えをしのぐことを表し、そこから、どうにか暮らしを立てることや、生計を営むことを意味するようになった言葉です。したがって、このことわざの「食う」は、一度の食事だけを指すのではなく、毎日の生活をつないでいくことまで含んでいます。
この明治時代の用例からは、少なくとも20世紀初めには、「食はうとて痩せる」という形が、暮らしのために身をすり減らす苦労を表す言い伝えとして採録されていたことが分かります。この採録では、特定の人物の逸話や物語を由来として挙げるのではなく、言葉そのものの意味を簡潔に記しています。
その後、「食はう」という表記は、現在の仮名遣いによる「食おう」に変わりました。しかし、「食べるために働いているのに、その苦労で痩せる」という言葉の組み立てと意味は、そのまま受け継がれています。
このことわざが表すのは、ただ仕事が忙しいという状態ではありません。わずかな収入で食費をまかなうために休みなく働いたり、暮らしを支えるための労働によって体を弱らせたりするような、生活そのものに追われる苦しさを指します。
食事は本来、体を養い、痩せないためにするものです。それにもかかわらず、食べ物を得るための苦労が人を痩せさせるという、目的と結果の逆転に、このことわざの鋭さがあります。
「食おうとて痩せる」は、勤勉さを褒める言葉ではなく、食べて暮らすだけでも心身をすり減らさなければならない境遇を、嘆きや皮肉を込めて言い表すことわざです。短い表現の中に、生活のための努力が、かえって人を苦しめるという深刻な矛盾が込められています。
「食おうとて痩せる」の使い方




「食おうとて痩せる」の例文
- 家計を支えるために二つの仕事を掛け持ちし、食おうとて痩せる毎日を送った。
- わずかな賃金では食費にも足りず、食おうとて痩せる暮らしから抜け出せない。
- 店を守ろうと朝から晩まで働いた父は、食おうとて痩せる有様だった。
- 物価の上昇で生活が苦しくなり、食おうとて痩せる人を減らす支援が求められた。
- 家族を養うために休みなく働く彼の姿は、まさに食おうとて痩せるというものだった。
- 食おうとて痩せるような働き方を続ければ、心も体ももたない。
主な参考文献
・熊代彦太郎編、幸田露伴閲『俚諺辞典』金港堂、1906年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・Cambridge University Press『Cambridge Dictionary.』























