【ことわざ】
食うに倒れず病むに倒れる
【読み方】
くうにたおれずやむにたおれる
【意味】
食べて暮らす費用だけで財産を失うことは少ないが、病気になると医薬代がかさみ、家計や暮らしが立ち行かなくなることがあるということ。病気の恐ろしさを説き、健康への注意を促す言葉。


【類義語】
・病には勝たれぬ(やまいにはかたれぬ)
「食うに倒れず病むに倒れる」の語源・由来
「食うに倒れず病むに倒れる」は、毎日の食費と、病気にかかった時の医薬代とを比べたことわざです。食べて生活するための費用は、苦しくても節約や工夫によって何とかやりくりできる場合が多いのに対し、病気になると、治療や薬にまとまった費用が必要となり、財産を失うほどの負担になることがあると説いています。
この言葉の「食う」は、単に食べ物を口に入れることだけを意味するのではありません。「食う」には、「生活する」「暮らしを立てる」という意味もあるため、ここでは、日々の食事を含めた普段の暮らしを支えることまで表しています。
一方、「病む」は、病気になることです。また、「倒れる」には、身体が横になることのほか、事業や生活が破綻するという意味があります。したがって、このことわざは、「食べると身体が倒れず、病気になると身体が倒れる」というだけの意味ではなく、「普段の生活費では家計はつぶれにくいが、病気による出費ではつぶれることがある」という経済的な教えを含んでいます。
表現の形にも特徴があります。「食うに倒れず」と「病むに倒れる」を並べ、同じ「倒れる」という言葉を、前半では打ち消し、後半では肯定しています。この短い対比によって、普段の食費よりも病気の負担のほうが、暮らしを大きく揺るがしかねないことを、印象深く伝えています。
病気には人の力だけで抗しにくいという考え方は、江戸時代前期の言葉にも表れています。『毛吹草(けふきぐさ)』(1638年・江戸時代前期、松江重頼編)には、「主と病」という言い方が出てきます。これは、仕える主人と病気には逆らえないという意味の「主と病には勝たれず」を縮めたものです。
『西鶴織留(さいかくおりどめ)』(1694年・江戸時代前期、井原西鶴著)にも、「主と病ひにはかたれまい」とあります。主人の命令と病気には勝つことができないという文脈で、病気を人の思いどおりにならない強い力として捉えています。形は異なりますが、病気には抗しにくいという生活感覚を、現在のことわざと共通して伝えています。
江戸時代には、医師へ支払う謝礼を、治療に用いる薬の代金という意味で、「薬礼(やくれい)」または「薬代」と呼びました。薬礼は、当時の金銭感覚では高額になることもあり、病気が長引けば、家計への負担も重くなりました。こうした暮らしの事情は、「病むに倒れる」という後半の切実さを理解する手がかりになります。
このことわざは、食べることを軽く見たり、病気になった人を責めたりする言葉ではありません。病気は、身体を苦しめるだけでなく、治療に必要な費用によって暮らし全体にも影響を及ぼすため、健康を粗末にせず、日頃から身体を大切にするよう戒めています。
「食うに倒れず病むに倒れる」の使い方




「食うに倒れず病むに倒れる」の例文
- 祖父は、食うに倒れず病むに倒れると言って、健康を何よりも大切にしていた。
- 長い入院で家の蓄えが減り、家族は食うに倒れず病むに倒れるという言葉を実感した。
- 食うに倒れず病むに倒れるというように、病気の治療には思いがけない費用がかかることがある。
- 店主が病気で働けなくなり、店の経営まで苦しくなった様子は、食うに倒れず病むに倒れるの教えを思わせた。
- 医療の備えについて話し合う中で、父は食うに倒れず病むに倒れるということわざを挙げた。
- 食うに倒れず病むに倒れると心得て、無理を重ねず身体をいたわることが大切だ。
主な参考文献
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・三省堂編修所編『新明解故事ことわざ辞典 第二版』三省堂、2016年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松江重頼編『毛吹草』1638年。
・井原西鶴『西鶴織留』1694年。























