【ことわざ】
鯨に鯱
【読み方】
くじらにしゃちほこ
【意味】
つきまとって害を与えること。また、邪魔に思われても、どこまでもついて離れないことのたとえ。


【類義語】
・金魚の糞(きんぎょのふん)
「鯨に鯱」の語源・由来
「鯨に鯱」の「鯱」は、「しゃち」ではなく「しゃちほこ」と読みます。同じ漢字は城の屋根に載せる飾りにも用いられますが、このことわざでは、海にすむ動物の鯱を指しています。古くは、現在「しゃち」と呼ぶ動物を「しゃちほこ」とも呼びました。
鯱は鋭い歯を持つ海の動物で、魚やアザラシなどを食べるほか、群れで鯨を襲うこともあります。大きな鯨に食いつき、逃げてもなお追いすがる鯱の姿が、相手につきまとって害を与える様子のたとえになりました。
江戸時代中期の図入り百科事典『和漢三才図会(わかんさんさいずえ)』(1712年序、寺島良安編)には、鯨を扱った巻に「魚虎(シャチホコ)」という名が出てきます。その歯やひれを剣や鉾(ほこ)のようだと記しており、18世紀初めには、鯨と関わりの深い海の動物を「しゃちほこ」と呼んでいたことが分かります。
「鯨に鯱」というまとまった形は、浄瑠璃(じょうるり)『蘆屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)』(1734年・江戸時代中期、竹田出雲作)の第三段に出てきます。この作品は、享保19年に刊行された義太夫節(ぎだゆうぶし)の浄瑠璃です。
その場面では、腰元(こしもと)たちが、主の行く所々へ後からついて回る様子を、「鯨(クジラ)に鯱(シャチホコ)」と表しています。ここでは、鯱が鯨から離れずについて行く姿を、何人もの者が主につき従う様子に重ねており、現在の「つきまとって離れない」という意味に近い用法です。
この浄瑠璃がことわざを作り出したとまでは言い切れません。作中で詳しい説明を添えずに用いているため、当時すでに、鯨と鯱の関係から意味を理解できる言い回しとして知られていたと考えられます。
古い用例では、主について回るという動作が前面に出ていますが、鯱が鯨を襲うという背景から、しだいに「ただ後について行く」だけでなく、「つきまとって不都合や害を与える」という意味も明確になりました。現在では、この二つの意味をあわせ持つことわざとして用いられています。
したがって、仲のよい者どうしが一緒に行動する場合には、ふつう用いません。相手が迷惑に思っているのに離れず、行動を妨げたり困らせたりするところに、このことわざの意味の中心があります。
「鯨に鯱」の使い方




「鯨に鯱」の例文
- 委員会の仕事中まで友人が後をついて邪魔をするのは、まさに鯨に鯱だ。
- 宿題を始めるたびに弟がまとわりついて鉛筆を隠すので、姉は鯨に鯱だと嘆いた。
- 何度断られても相手の行く先々へ押しかける姿は、鯨に鯱というほかない。
- 競争相手は新製品の販売先まで追ってきて、鯨に鯱のように妨害を重ねた。
- 取材陣が出演者の移動先にまで押しかけた様子は、鯨に鯱そのものだった。
- 迷惑だと伝えても後をついて離れない相手に、彼女は鯨に鯱という言葉を思い浮かべた。
主な参考文献
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・寺島良安編『和漢三才図会』1712年序。
・竹田出雲『蘆屋道満大内鑑』1734年。























