【ことわざ】
口から出れば世間
【読み方】
くちからでればせけん
【意味】
秘密は、ひとたび口に出せば世間に広まり、もはや秘密ではなくなるという戒め。


【類義語】
・囁き千里(ささやきせんり)
・人の口に戸は立てられぬ(ひとのくちにとはたてられぬ)
「口から出れば世間」の語源・由来
「口から出れば世間」は、秘密を口にした瞬間から、その内容が話した人だけのものではなくなり、世間へ広まるおそれが生じるという経験を表したことわざです。古くは「口より出せば世間」という形で使われ、現在の「口から出れば世間」は、その意味を受け継ぐ言い方です。
現在知られている古い用例としては、『国性爺合戦(こくせんやかっせん)』(1715年・江戸時代中期、近松門左衛門著)の三段目に出てきます。この作品は、正徳5年に大坂の竹本座(たけもとざ)で人形浄瑠璃(にんぎょうじょうるり)として初演され、十七か月にわたって上演されるほどの大きな評判を呼びました。翌年には京都で歌舞伎に移され、その後、江戸でも上演されました。
『国性爺合戦』は、中国人の父と日本人の母をもつ和藤内(わとうない)が、両親とともに中国大陸へ渡り、父の祖国である明(みん)の再興を目指す物語です。和藤内は、明を救うために味方を集め、重大な決断を迫られる人々と向き合います。
その三段目には、「是程の一大事、口より出せば世間(セケン)ぞや」とあります。「これほど重大なことは、ひとたび口に出せば、もう世間に知られたのと同じである」という意味です。
この言葉に続いて、返事を考えている間にも話が漏れ、後から悔やんでも取り返せなくなるという趣旨が述べられます。ここでは、秘密を話した相手が一人であっても、その人から別の人へ伝われば、重大な計画が敵方に知られる危険があることを戒めています。
古い形である「口より出せば」は、現代の言い方では「口から外へ出してしまえば」に近い表現です。後には、「より」を「から」に、「出せば」を「出れば」に改めた「口から出れば世間」という形も使われるようになり、現在では両方の言い方が同じ意味を表します。
このことわざが戒めるのは、口にした言葉を取り消せないことだけではありません。一人に秘密を話した時点で、誰から誰へと伝わるかを話し手が制御できなくなり、秘密そのものが秘密ではなくなるという点に重みがあります。
そのため、家庭の相談事、友人から打ち明けられた内緒話、仕事上の未公開情報など、広く知られてはならない事柄を口にする前の戒めとして用います。「この人だけなら」と思って話したことも広まるおそれがあるため、秘密を守るには、まず自分の口を慎まなければならないことを教えることわざです。
「口から出れば世間」の使い方




「口から出れば世間」の例文
- 口から出れば世間というから、結果が正式に発表されるまでは誰にも話さなかった。
- 姉は口から出れば世間と考え、家族だけで話し合った相談事を胸にしまった。
- 口から出れば世間なのに、彼は友人の秘密を一人だけならよいと思って漏らしてしまった。
- 新商品の情報は口から出れば世間だと、責任者は会議の冒頭で注意を促した。
- 祭りの出演者を正式に発表するまでは、口から出れば世間という戒めを関係者全員が守った。
- 口から出れば世間を忘れて軽々しく話したため、内緒の計画が町中に知れ渡った。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・近松門左衛門『国性爺合戦』1715年。























