【ことわざ】
今日あって明日ない身
【読み方】
きょうあってあすないみ
【意味】
人の命がはかなく、今日は生きていても明日はどうなるか分からないことのたとえ。また、死期が差し迫っていること。


【英語】
・Here today, gone tomorrow.(今日ここにあっても、明日には消えているほど存在がはかない)
【類義語】
・朝には紅顔ありて夕べには白骨となる(あしたにはこうがんありてゆうべにははっこつとなる)
「今日あって明日ない身」の語源・由来
「今日あって明日ない身」は、「今日」と「明日」という隣り合う二日を対にして、人の命のはかなさを表した言葉です。「身」は、ここでは単なる体ではなく、自分自身や人そのものを指します。今日ここにいる自分が、明日も同じように生きているとは限らないという命の不確かさを、短い形に凝縮しています。
この言葉が生まれた江戸時代前期には、明日の命を知ることができないという考えが、さまざまな表現に現れていました。浅井了意の『東海道名所記(とうかいどうめいしょき)』(1661年ごろ・江戸時代前期)にも、「一寸先は闇、命は露の間、あすをもしらぬうき世なるに」とあります。これは、「今日あって明日ない身」の直接のもとになった文ではありませんが、命を露のようにはかないものと見る、同じ時代の考え方をよく表しています。
現在の言い方に直接つながる古い用例は、『後撰夷曲集(ごせんいきょくしゅう)』(1672年・江戸時代前期、生白堂行風編)巻九に出てきます。この書物は、三百九十一人の作者による千六百七十余首を、四季・恋・雑などに分けて収めた狂歌集です。
そこには、「けふあってあすなひ身とは知ながら」とあります。続く部分では、そのようにはかない身であると分かっていながら、遠い先まで暮らすかのように長い蓄えをする人間の姿を、面白みを交えて詠んでいます。命に限りがあると知りつつ、将来のために物をため続ける人の矛盾を描いた狂歌です。
この古い用例では、「今日」を「けふ」、「ない」を「なひ」と書いています。これは当時の仮名遣いによる表記であり、言葉の組み立てそのものは、現在の「今日あって明日ない身」とほぼ同じです。江戸時代前期には、すでに、人の命のはかなさを表すまとまった言い方として用いられていたことが分かります。
その後、『大経師昔暦(だいきょうじむかしごよみ)』(1715年・江戸時代中期、近松門左衛門著)にも、この言葉が出てきます。この作品は、京都の大経師の妻おさんと手代の茂兵衛が逃亡し、やがて捕らえられて処刑される事件をもとにした浄瑠璃です。
逃亡中のおさんは、茂兵衛に「とてもわしらは今日あって明日ない身」と語ります。二人は、いつ捕らえられ、命を失うか分からない立場にあります。そのため、ここでの言葉は、広く人間一般の命がはかないという意味だけでなく、自分たちの死期がすぐ近くまで迫っていることを、切実に表しています。
『後撰夷曲集』では、誰にでも当てはまる命のはかなさを背景に、人が長い将来に備える姿をおかしく詠んでいます。一方、『大経師昔暦』では、追われる二人が差し迫った死を覚悟する言葉として使われています。この二つの用法から、江戸時代にはすでに、「人の命ははかない」という広い意味と、「死期が迫っている」という具体的な意味の両方が結び付いていたことが分かります。
現在も、この二つの意味は受け継がれています。ただ未来が予測できないというだけでなく、命そのものがいつ失われるか分からないことを表すため、「一寸先は闇」よりも、死や生のはかなさを強く含む言葉です。人の命には限りがあるという現実を、今日と明日という身近な時間の対照によって、静かに伝えることわざです。
「今日あって明日ない身」の使い方




「今日あって明日ない身」の例文
- 長く病床にある祖父は、今日あって明日ない身だから、家族全員に会っておきたいと望んだ。
- 戦乱の世では、身分の高い武将でさえ今日あって明日ない身であった。
- 医師から病状を告げられた彼は、今日あって明日ない身として残された日々を大切に過ごした。
- 今日あって明日ない身なのだから、争ったまま別れるのは悔いが残ると二人は仲直りした。
- 昔の人々は、疫病や飢饉に苦しみながら、今日あって明日ない身の不安を抱えて暮らした。
- 老僧は、誰もが今日あって明日ない身であることを忘れず、一日一日を誠実に生きよと説いた。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・Cambridge University Press & Assessment, 『Cambridge Dictionary.』
・浅井了意『東海道名所記』1661年ごろ。
・生白堂行風編『後撰夷曲集』1672年。
・近松門左衛門『大経師昔暦』1715年。























