【ことわざ】
女の足駄にて造れる笛には秋の鹿寄る
【読み方】
おんなのあしだにてつくれるふえにはあきのしかよる
【意味】
女の色香に、男は心を奪われて迷いやすいことのたとえ。


【類義語】
・女の髪の毛には大象もつながる(おんなのかみのけにはたいぞうもつながる)
「女の足駄にて造れる笛には秋の鹿寄る」の語源・由来
「足駄(あしだ)」は、雨の日などに履いた、歯の高い木製の履物です。「鹿笛(しかぶえ)」は、鹿の鳴き声に似た音を出し、狩りをする人が鹿を誘い寄せるために用いた笛です。
秋は鹿が相手を求める時期で、鹿笛の音を仲間の鳴き声だと思い、近づくことがあります。この習性から、秋の鹿が笛に引き寄せられる姿は、欲望や弱みのために危険へ近づいてしまう人のたとえにもなりました。
このことわざの古い用例は、『徒然草(つれづれぐさ)』(14世紀前半成立、鎌倉時代末期、兼好著)の第九段に出てきます。『徒然草』の成立時期や編集の過程にはさまざまな見方がありますが、鎌倉時代末期に書かれた随筆として伝わっています。
第九段では、兼好が人の心を惑わせる女性の美しさについて述べたあと、欲望に心を縛られる「愛著(あいじゃく)」は根が深いと語ります。目や耳などを通して心に欲望を起こさせる対象を「六塵(ろくじん)」と呼び、その多くは遠ざけられても、男女の情欲だけは、老若や賢愚を問わず抑えにくいと続けます。
その強さを表すため、第九段には二つのたとえが置かれています。一つは、女性の髪をより合わせた綱なら、大象(だいぞう)さえつなぎ止められるというたとえです。もう一つが、女性の履いた足駄で作った笛には秋の鹿が必ず寄ってくるという、このことわざです。
ここでの「秋の鹿」は、女性の魅力に引き寄せられる男性を表します。実際の笛の作り方を述べたものではなく、女性が身に着けていた物には、それだけで人の心を動かすほどの力が宿るという考えを、強く誇張して表したものです。
伝わる本文には、「足駄にて造れる笛」と記す形と、「足駄にて作れる笛」と記す形があります。どちらも「つくれる」と読み、女性の履物を材料にした笛という同じ比喩を表しているため、ことわざの意味は変わりません。
同じ鹿笛の発想は、『曾我物語(そがものがたり)』(鎌倉時代後期から室町時代初期にかけて成立、作者不詳)にも出てきます。作中では、秋の鹿が笛に心を乱す姿が、弱みや欲望のために自ら危険へ近づく者のたとえとして用いられています。このことから、鹿と笛の組み合わせが、中世から広く知られていたことが分かります。
江戸時代前期には、この一節が着物の模様にも取り入れられました。『友禅ひいながた(ゆうぜんひいながた)』(1688年、日置清親画)には、秋草、足駄、鹿の角を組み合わせた図案とともに、このことわざに当たる文言が載っています。『徒然草』の一節を絵から連想させる趣向として、受け継がれていたことがうかがえます。
このように、「女の足駄にて造れる笛には秋の鹿寄る」は、鹿笛に誘われる秋の鹿の習性を、抑えにくい恋心に重ねた言葉です。『徒然草』に記された中世の男女観を背景に、女性の色香に男性が迷いやすいことを表すことわざとして定着しました。
「女の足駄にて造れる笛には秋の鹿寄る」の使い方




「女の足駄にて造れる笛には秋の鹿寄る」の例文
- 美しい舞姫に心を奪われて政務を忘れた王の姿は、女の足駄にて造れる笛には秋の鹿寄るのたとえそのものだ。
- 彼は相手の人柄を知る前から容姿に夢中になり、女の足駄にて造れる笛には秋の鹿寄ると友人にたしなめられた。
- 社長が魅力的な相手の言葉を疑わず契約を急いだため、周囲は女の足駄にて造れる笛には秋の鹿寄ると心配した。
- 祖父は女の足駄にて造れる笛には秋の鹿寄るという古い言葉を引き、色香に惑って判断を誤る危うさを語った。
- 地域の芝居では、女の足駄にて造れる笛には秋の鹿寄るを題材に、恋に夢中な若殿の失敗を描いた。
- 国語の授業で女の足駄にて造れる笛には秋の鹿寄るを読み、中世の人が恋心を鹿笛にたとえた発想を学んだ。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』全3巻、小学館、2006年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・兼好『徒然草』14世紀前半成立。
・作者不詳『曾我物語』鎌倉時代後期から室町時代初期成立。
・日置清親画『〈都今様御所〉友禅ひいながた』1688年。























