【ことわざ】
蟹の横這い
【読み方】
かにのよこばい
【意味】
はたから見ると不自由そうでも、本人には最も適していること。また、物事がなかなか前に進まないこと。


【英語】
・horses for courses.(人や物には、それぞれ適した場がある)
・different strokes for different folks.(人によって好みや必要なものは違う)
【類義語】
・猿の木登り蟹の横這い(さるのきのぼりかにのよこばい)
・足踏み(あしぶみ)
・停滞(ていたい)
【対義語】
・木に縁りて魚を求む(きによりてうおをもとむ)
「蟹の横這い」の語源・由来
「蟹の横這い」は、蟹が横に歩く姿から生まれたことわざです。人間の目にはぎこちなく見える歩き方でも、蟹にとっては自然で、からだのつくりに合った動きであることから、はたから不自由そうに見えても本人には最も適しているという意味になりました。
「横這い」は、もともと横にはうことを表します。「カニの横這い」という例が示すように、横へ動く姿そのものを表す言葉であり、のちに物価や相場、数値などが大きく変わらない状態にも使われるようになりました。
蟹は、十脚目短尾下目の甲殻類の総称で、甲と一対のはさみ脚、四対の歩脚をもつ動物です。横に歩くという身近な特徴が、人の世のたとえとして分かりやすかったため、このことわざの材料になりました。
蟹の横歩きには、からだのつくりに合った理由があります。多くの蟹は、横に広がったからだの側面に脚がつき、脚の関節も横方向の動きに向いているため、横に進む方が効率よく動けます。
この横向きの動きには、脚どうしがからまりにくく、左右どちらにも速く逃げられる利点があります。つまり、蟹の横這いは、人間から見れば不思議な動きであっても、蟹にとっては生きるためにかなった動きなのです。
このことわざは、単に「変な歩き方」をからかう言葉ではありません。外から見れば不器用そうでも、その人にはその人なりの力の出し方がある、という受け止め方を含んでいます。
「蟹の横這い」は、「猿の木登り」と続けて用いることもあります。猿が木に登ることも、蟹が横に這うことも、それぞれの生き物に合った自然な動きであるため、各自が自分の特色を生かすという考えを表します。
古い用例としては、『後撰夷曲集(ごせんいきょくしゅう)』(1672年・江戸時代前期、生白堂行風編)に関わる形が伝わります。この書物は江戸前期の狂歌集で、十巻六冊からなり、作者三九一人の狂歌を四季・恋・雑などに分けて収めたものです。
『後撰夷曲集』に関わる伝承では、「猿の木登り、蟹の横這い」という形で、自然に逆らわずに行動するのが得策であり、はたから不自由そうでも本人にはその方が楽であるという意味を表します。ここでは、蟹が横に進む動きが、本人に合った自然なふるまいのたとえになっています。
一方で、蟹が横へ動き、前へまっすぐ進まないように見えることから、物事がなかなか前に進まないという意味も生まれました。この意味では、会議や仕事、計画などが足踏みしている様子を表します。
現在では、「自分に合ったやり方」という前向きな意味と、「物事が停滞する」という意味の二つで使われます。どちらの意味でも、蟹の実際の動きから、人や物事のあり方をたとえる点は同じです。
「蟹の横這い」の使い方




「蟹の横這い」の例文
- 父の仕事の進め方は遠回りに見えるが、本人には蟹の横這いでいちばん合っている。
- 会議は同じ話を繰り返すばかりで、蟹の横這いの状態が続いた。
- 友人の勉強法は少し変わっているが、蟹の横這いで本人には覚えやすいらしい。
- 新しい制度づくりは意見がまとまらず、しばらく蟹の横這いだった。
- 周囲から不器用に見えても、蟹の横這いのように自分に合ったやり方を大切にしたい。
- 店の売り上げは大きく落ちても上がってもおらず、蟹の横這いが続いている。
主な参考文献
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・生白堂行風編『後撰夷曲集』1672年。
・二階堂清風編著『釣りと魚のことわざ辞典』東京堂出版、1998年。
・Encyclopaedia Britannica, “Why Do Crabs Walk Sideways?”
・Cambridge University Press, Cambridge Dictionary.
・HarperCollins Publishers, Collins English Dictionary.























