【故事成語】
機に臨み変に応ず
【読み方】
きにのぞみへんにおうず
【意味】
その時、その場に応じて適切な処置をとること。臨機応変に行うこと。


【英語】
・as occasion may demand.(必要に応じて)
・according to circumstances.(状況に応じて)
【類義語】
・臨機応変(りんきおうへん)
・当意即妙(とういそくみょう)
・機に応ずる(きにおうずる)
【対義語】
・杓子定規(しゃくしじょうぎ)
「機に臨み変に応ず」の故事
「機に臨み変に応ず」は、四字熟語「臨機応変」を漢文風に読み下した形として広く用いられる言い方です。「臨機応変」は、機に臨み、変化に応じ、適切な手段を施すことを表します。
この言葉の背景には、中国の史書『南史(なんし)』があります。『南史』は、唐の李延寿が撰した二十四史の一つで、南朝の宋・斉・梁・陳の四王朝の歴史を一書にまとめた全八十巻の史書です。
もとの表現は、『南史』巻五十一「梁宗室上」に出てくる「臨機制変」です。現在の「臨機応変」や「機に臨み変に応ず」は、この「機に臨んで変を制す」という考えを受け継いだ形です。
話の中心となる人物は、梁の武帝に親しまれ、貞陽侯に封じられた蕭淵明です。蕭淵明は、梁の軍を率いて北へ進み、彭城を攻める軍事行動にかかわりました。
そのとき梁の軍は、寒山に堰を築き、清水を引いて彭城を水攻めにしようとしました。ところが、魏の将である慕容紹宗が救援に来ると、蕭淵明ははっきりとした策略を出さず、軍令も十分に行き渡らない状態になりました。
諸将がたびたび作戦を相談すると、蕭淵明は怒って「吾自臨機制変、勿多言」と言いました。これは、「自分がその時機に応じて変化を制するから、多くを言うな」という意味です。
この原文の「臨機」は、その時機に直面することを表します。「制変」は、事態の変化を押さえ、処置することを表し、後に「応変」、つまり変化に応じて対処する考えと結びついて理解されました。
ただし、『南史』の場面では、蕭淵明が本当にすぐれた判断を示した話としてだけ読むことはできません。諸将が相談しても怒るだけで、兵たちは人々の物を奪い、蕭淵明もそれを十分に制することができなかった、と続いて記されています。
つまり、原典の場面には、「自分が時機に応じて判断する」と言いながら、実際には軍をうまく動かせなかった人物の姿も含まれています。そこから後世には、言葉そのものが「状況に応じて適切に処置する」というよい意味で取り出され、定着していきました。
日本語では、「臨機応変」という四字熟語が早くから用いられました。『翁問答』(1650年、江戸時代前期、中江藤樹著)には「臨機応変の覚悟」という用例があり、型通りの知識だけでなく、その場に応じた判断が大切であるという意味で使われています。
また、「機に臨み変に応ずる」という形も、日本語の文章の中で用いられました。江戸時代後期の読本『椿説弓張月(ちんせつゆみはりづき)』(1807〜1811年刊、曲亭馬琴作、葛飾北斎画)には、「機に臨み変に応じ」という用例が出てきます。
『椿説弓張月』は、源為朝の一代記を描いた読本です。その用例では、戦いの場で相手の計略に対して、状況を見て作戦を立てる意味で「機に臨み変に応じ」が用いられています。
現在の「機に臨み変に応ず」は、計画を持たないまま行き当たりばったりに動くことではありません。状況をよく見て、必要なときに方法を変え、最もよい処置を選ぶことを表す故事成語です。
「機に臨み変に応ず」の使い方




「機に臨み変に応ず」の例文
- 大会当日に強い雨が降ったため、係の先生は機に臨み変に応ずの判断で競技順を変更した。
- 店長は急な予約人数の変更にも、機に臨み変に応ずの姿勢で席を整えた。
- 発表中に機械が止まったが、代表の生徒は機に臨み変に応ずの対応で口頭説明に切り替えた。
- 旅先で電車が止まったとき、父は機に臨み変に応ずとばかりに別の道を調べた。
- 仕事では、予定通りに進まない場面ほど、機に臨み変に応ず力が求められる。
- 監督は相手チームの作戦を見抜き、機に臨み変に応ず采配で流れを変えた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館国語辞典編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・李延寿『南史』唐代。
・中江藤樹『翁問答』1650年。
・曲亭馬琴作、葛飾北斎画『椿説弓張月』1807〜1811年。
・EDP・アルク『英辞郎 on the WEB』。























