【ことわざ】
空き家の雪隠でこえなし
【読み方】
あきやのせっちんでこえなし
【意味】
呼びかけても返事や応答がなく、だれも口をきかないさまのたとえ。


【英語】
・There was no answer.(呼びかけても返事がなかった)
・His questions were met with silence.(問いかけに沈黙が返ってきた)
・No one spoke a word.(だれひとり口をきかなかった)
【類義語】
・空家の雪隠(あきやのせっちん)
・梨の礫(なしのつぶて)
・暖簾に腕押し(のれんにうでおし)
【対義語】
・打てば響く(うてばひびく)
「空き家の雪隠でこえなし」の語源・由来
このことわざの土台にあるのは、「空家の雪隠」という、返事のないことをしゃれて言う古い言い方です。短い形だけでも、人の家をたずねて呼んでも何の返事もない場面を表すことばとして使われてきました。
まず「雪隠」は便所のことです。今では古風な言い方ですが、昔の日本語では広く使われた語でした。
この語は、もともと「せついん」という形から変わって「せっちん」になったものです。1590年(天正18年・安土桃山時代)の節用集にもこの語があり、1717年(享保2年・江戸時代中期)の『世間娘容気(せけんむすめかたぎ)』にも用例が出てきます。
つぎに大事なのが、「こえ」という音です。今の日本語では「こえ」といえばふつう声を思い浮かべますが、昔は「肥」と書いて、こやしや下肥のことも「こえ」と言いました。
とくに人の糞尿は農作物を育てるための大切な肥料でした。1853年(嘉永6年・江戸時代後期)に成った『守貞漫稿(もりさだまんこう)』には、江戸では屎を俗に「こゑ」といい、それを家主のものとして農夫に売ることまで書かれています。
そう考えると、空き家の便所には使う人がいないので、そこには「肥」がたまりません。そこで「肥なし」という言い方が成り立ち、それが「声なし」と同じ音で重なるようになりました。
つまりこのことわざは、空き家の便所には肥がない、という具体的な話を土台にしながら、呼んでも声が返ってこない、という意味を重ねたしゃれなのです。汚れた場所を持ち出して笑いに変える、昔のことば遊びらしい作りになっています。
今の形にかなり近い古い例としては、江戸時代中期から後期の上方で作られた「粋ことば花月遊」というかるたに、「あきやのせつちんこゑがない(空家の雪隠肥(声)がない)」という札が出てきます。ここでは、肥と声を二重にかけるしかけが、文字の上でもはっきり示されています。
この札が入っているのは、しゃれや地口を楽しむ遊びのかるたです。そこにこの言い方が入っていることからも、この表現が、まじめな教訓というより、まず気のきいたことば遊びとして広まったことがうかがえます。
その後、このしゃれた言い方は、実際の場面で使えることばとして残りました。人の家をたずねて呼んでも返事がないときだけでなく、会合や相談の場でだれもものを言わず、しんと静まっているときにも使われるようになります。
「空き家の雪隠でこえなし」は、古い生活の実感と、音の重なりを生かしたしゃれとが結びついて生まれたことわざです。空っぽの場所からは何も返らない、というさびしさと可笑しみを、一度に言い表すところに、このことばのおもしろさがあります。
「空き家の雪隠でこえなし」の使い方




「空き家の雪隠でこえなし」の例文
- 玄関先で何度名を呼んでも返事がなく、まるで空き家の雪隠でこえなしだった。
- 学級会で意見を求められたのに、教室は空き家の雪隠でこえなしの静けさに包まれた。
- 手紙を三度出しても何の返事も来ず、空き家の雪隠でこえなしという思いがした。
- 会議で新しい当番を決めようとしても、だれも口を開かず、空き家の雪隠でこえなしだった。
- 近所の家に回覧板を持って行ったが留守らしく、空き家の雪隠でこえなしのまま引き返した。
- 苦情への説明を求めても会社から連絡がなく、被害を受けた人たちは空き家の雪隠でこえなしだと感じた。























