【ことわざ】
開いた口へ牡丹餅
【読み方】
あいたくちへぼたもち
【意味】
努力もしないのに、思いがけなく幸運がやって来ることのたとえ。


【類義語】
・棚から牡丹餅(たなからぼたもち)
「開いた口へ牡丹餅」の語源・由来
「開いた口へ牡丹餅」は、口を開けているだけで、向こうから食べ物が入ってくるという情景をたとえにしたことわざです。自分で取りに行くことも、手に入れるために苦労することもなく、うれしいものがそのまま届くという形によって、思いがけない幸運を分かりやすく表しています。
この言い方は、古い用例では「牡丹餅」ではなく、「餅」の形で現れます。恋川春町作・画による黄表紙(きびょうし:江戸時代の大人向けの絵入り読み物)『金々先生栄花夢(きんきんせんせいえいがのゆめ)』(1775年・江戸時代中期)には、「あいた口へもち」という表現が出てきます。
『金々先生栄花夢』は、主人公が成功を夢見て江戸へ向かい、目黒不動の門前にある粟餅(あわもち)屋でうたた寝をするところから始まります。夢の中で、主人公は大店(おおだな)の養子となり、華やかな暮らしを送りますが、最後には勘当されて目を覚まします。その夢の中で、思いがけず栄華を手にした喜びを表す場面に、「あいた口へもち」が使われています。
その後、山東京伝の洒落本(しゃれぼん)『通言総籬(つうげんそうまがき)』(1787年・江戸時代中期)にも、「あいた口へもちなり」という形が出てきます。江戸の遊里を背景に、当時の会話や風俗を描いた作品の中で、この言い方が用いられていることから、思いがけない幸運を「口へ餅が入る」ことにたとえる表現は、江戸の読み物の中で繰り返し使われていたことが分かります。
梅松亭庭鵞の洒落本『虚実情の夜桜(うそとまことなさけのよざくら)』(1800年ごろ・江戸時代後期)にも、この系統の用例があります。『金々先生栄花夢』から『通言総籬』、さらにこの作品へと用例が続き、少なくとも江戸時代の後半には、「開いた口へ餅」という言い方が、労せず好都合な巡り合わせを得る場面に用いられていました。
現在の見出しと同じく「牡丹餅」を用いた形は、仮名垣魯文の滑稽小説『西洋道中膝栗毛(せいようどうちゅうひざくりげ)』(1870〜1876年・明治時代初期)に、「あいたくちへぼたもちのうまいはなし」という用例で現れます。この作品は、弥次郎兵衛と北八の孫たちがロンドンの博覧会を目指す道中を、おかしく描いた読み物です。
「餅」も「牡丹餅」も、ここではただの食べ物ではなく、思いがけず手に入るうれしい利益のたとえになっています。江戸時代の「開いた口へ餅」という形から、明治初期に確認できる「開いた口へ牡丹餅」という形へと、食べ物の呼び方がより具体的になっても、「努力せずに幸運がやって来る」という意味の芯は変わっていません。
こうして、「開いた口へ牡丹餅」は、開けた口へおいしいものが入るというおかしみのある情景を通して、望んでもいなかった幸運が向こうから舞い込むことを表すことわざとして伝わってきました。「棚から牡丹餅」と同じく、自分の努力によらず、思いがけない幸運に恵まれた場面で用いる言葉です。
「開いた口へ牡丹餅」の使い方




「開いた口へ牡丹餅」の例文
- 応募したことさえ忘れていた懸賞で旅行券が当たり、開いた口へ牡丹餅の幸運に驚いた。
- 知人から譲り受けた古い切手の中に貴重な一枚があり、まさに開いた口へ牡丹餅だった。
- 欠員が出たため希望していた役を任され、彼女にとっては開いた口へ牡丹餅の機会となった。
- 何げなく参加した抽選会で家電が当たり、家族は開いた口へ牡丹餅だと喜んだ。
- 取引先から思いがけず大口の注文が入り、会社には開いた口へ牡丹餅の話となった。
- 帰省の途中で偶然立ち寄った店から高価な景品を贈られ、開いた口へ牡丹餅の一日になった。
主な参考文献
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・恋川春町『金々先生栄花夢』1775年。
・山東京伝『通言総籬』1787年。
・梅松亭庭鵞『虚実情の夜桜』1800年ごろ。
・仮名垣魯文『西洋道中膝栗毛』1870〜1876年。























