【ことわざ】
合うも不思議、合わぬも不思議
【読み方】
あうもふしぎ、あわぬもふしぎ
【意味】
夢や占いは、現実と合っても、もともと根拠のはっきりしないものなので不思議だということ。占いや夢の当たり外れに振り回されすぎない考えを表す。


【英語】
・dreams and fortune-telling are hit-and-miss(夢や占いは当たることも外れることもある)
【類義語】
・当たるも八卦、当たらぬも八卦(あたるもはっけ、あたらぬもはっけ)
【対義語】
・正夢(まさゆめ)
「合うも不思議、合わぬも不思議」の語源・由来
「合うも不思議、合わぬも不思議」の「合う」は、ここでは人と人の気が合うという意味ではなく、夢や占いの内容が現実に合う、つまり当たるという意味です。現在の説明では、占いや夢にはもともと確かな根拠がないので、当たったとしても、それはむしろ不思議だという考えを表す言葉として受け取られています。後半の「合わぬも不思議」は、意味を新しく加えるというより、言葉の調子を整えるために添えられたものとされています。
古い用例として重要なのは、『大蔵虎寛本(おおくらとらひろぼん)』に収められた狂言「花子(はなご)」です。『大蔵虎寛本』は1792年の台本で、固定期の台本として、現行の演出に近いものとされています。狂言は、猿楽(さるがく)のこっけいな物真似の要素が洗練され、室町時代に成立したせりふ劇です。
「花子」は、大蔵流・和泉流に伝わる狂言の曲名です。話の中心には、洛外に住む男が、以前に美濃国野上(のがみ)の宿で親しくなった花子に会いに行こうとし、妻には別の用事を装うという筋があります。この曲では、男が夢見の悪さを理由に出かけようとする場面があり、夢をどのように受け止めるかが会話の中に出てきます。
その場面で、「夢と申物ははかない物で、合ふも不思議合ぬもふしぎ、唯何事も墓無い夢の浮世で御座るに依て」という形が出てきます。古い表記では「合ふ」「合ぬ」と書かれ、現代の表記では「合う」「合わぬ」に当たります。ここでは、夢ははかないものだから、たとえ当たっても当たらなくても、それに心をとられすぎないほうがよい、という文脈で使われています。
この用例の近くには、『金剛般若経(こんごうはんにゃきょう)』の「一切有為法、如夢幻泡影、如露亦如電、応作如是観」という考えも響いています。これは、あらゆるものは夢や幻、泡や影のように実体がなく、露や稲妻のようにはかないものだと見るべきだ、という趣旨の文句です。狂言の中で夢を「はかない物」と述べる流れは、夢をただの予言として怖がるのではなく、世の中そのものの移り変わりやすさと重ねて受け止める考え方につながっています。
後の時代には、占いについて「当たるも八卦、当たらぬも八卦」ということわざが広く用いられるようになります。この言葉は、占いは当たることも外れることもあり、必ずしも的中するものではないという意味です。「合うも不思議、合わぬも不思議」も、それに近い発想をもちますが、特に夢や占いの不確かさを、ややしみじみとした言い方で表すところに特徴があります。
つまり、このことわざは、夢や占いを頭から否定する言葉ではありません。反対に、夢や占いを絶対に正しいものとして信じこむ言葉でもありません。夢や占いが現実に合うこともあれば、合わないこともあり、その当たり外れに心を大きく動かされすぎないほうがよい、という落ち着いた見方を伝えることわざです。
「合うも不思議、合わぬも不思議」の使い方




「合うも不思議、合わぬも不思議」の例文
- 朝の占いが当たったので驚いたが、合うも不思議、合わぬも不思議と思って気にしすぎないことにした。
- 悪い夢を見て不安になった母は、合うも不思議、合わぬも不思議だから大丈夫だと自分に言い聞かせた。
- 友人の夢の内容が偶然その日の出来事と重なり、合うも不思議、合わぬも不思議という言葉が頭に浮かんだ。
- 旅行前のおみくじがよい結果だったが、合うも不思議、合わぬも不思議として、準備はきちんと進めた。
- 合うも不思議、合わぬも不思議というように、占いの結果だけで大事な進路を決めるべきではない。
- 祖父は、夢見が悪くても合うも不思議、合わぬも不思議だと言って、いつも通り畑へ出かけた。
主な参考文献
日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・平凡社編『改訂新版 世界大百科事典』平凡社、2007年。
・笹野堅校訂『能狂言 上・中・下』岩波書店、1942〜1945年。
・鳩摩羅什訳『金剛般若波羅蜜経』。























