【ことわざ】
海驢の番
【読み方】
あしかのばん
【意味】
眠るとき、交替で起きて見張りをすること。不寝番を置き、全員が同時に眠らないようにするたとえ。


【英語】
・take turns keeping watch(交替で見張りをする)
・stand watch by turns(交替で見張りに立つ)
【類義語】
・不寝番(ふしんばん)
・寝ずの番(ねずのばん)
・隔番(かくばん)
【対義語】
・高枕(たかまくら)
「海驢の番」の語源・由来
「海驢の番」は、アシカが群れで休む姿をもとにした言い方です。「海驢」は「あしか」と読み、「葦鹿」とも書かれ、海岸や岩礁で群れをなして休む海のけものを指します。
このことわざの中心にあるのは「番」です。全員が一度に眠るのではなく、危険に早く気づけるように、起きている役を交替で置くという考え方がもとになっています。
古い形としては「葦鹿の番」が伝わり、『俚言集覧(りげんしゅうらん)』(1797年ごろ、江戸時代後期)に、眠るとき交替で不寝番を置くこととして出てきます。ここでは、アシカの習性を手がかりに、人の見張りのしかたをたとえています。
『俚言集覧』は、俗語や俗諺(ぞくげん:世間で使われることわざや言い回し)を集めた江戸時代の国語辞書です。太田全斎(おおたぜんさい)が著した『諺苑(げんえん)』をもとに増補改編されたものとして伝わります。
この言い方の由来では、アシカが群居して眠るとき、必ず一頭が起きて周囲を警戒するという理解が大切です。その姿から、「休む者」と「見張る者」を分け、交替で安全を守るという意味が生まれました。
江戸時代には、アシカは「眠りを好む動物」とも受け取られていました。『和漢三才図会(わかんさんさいずえ)』(1712年・江戸時代中期、寺島良安〔てらじま りょうあん〕編)にも関わる知識として、眠るアシカの印象が広く伝わっていました。
ただし、「海驢の番」は、単に「よく眠る」という意味ではありません。眠る群れの中にも、警戒のために起きているものがいるという点が、このことわざの意味を支えています。
表記には「葦鹿」と「海驢」があります。「葦鹿」も「海驢」も「あしか」を表す言葉として用いられ、同じ動物を指す表記の違いとして理解できます。
そのため、「海驢の番」という形は、「葦鹿の番」と同じ発想を、別の漢字表記で言い表したものといえます。動物名の表記は変わっても、交替で見張りをするという意味の中心は変わりません。
このことわざは、山小屋、船、キャンプ、災害時の見回りなど、全員が同時に休むと危険に気づきにくい場面に合います。大切なのは、一人だけが無理をして起き続けることではなく、順番を決めて見張りを切らさないことです。
つまり「海驢の番」は、危険に備えて交替で休み、必要な警戒を続ける知恵を表すことわざです。動物の習性に重ねて、人の暮らしの中の見張りや用心を短く言い表す、落ち着いた表現です。
「海驢の番」の使い方




「海驢の番」の例文
- 台風の夜、自治会は川の水位を見落とさないよう、海驢の番で見回りを続けた。
- 山小屋では、熊よけの鈴や食料箱の様子を確かめるため、登山者が海驢の番をした。
- 文化祭前夜、展示品を守る係は海驢の番で交替しながら体育館に残った。
- 船が港に入るまで、乗組員は海驢の番で計器と周囲の灯りを見守った。
- 停電が続いた避難所では、発電機の火気に注意するため、職員が海驢の番を置いた。
- 合宿の夜、荷物置き場に何度も風が吹きつけたので、班員は海驢の番で確認に回った。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・二階堂清風編著『釣りと魚のことわざ辞典』東京堂出版、1998年。
・太田全斎編『俚言集覧』1797年ごろ。
・太田全斎『諺苑』1797年。
・寺島良安編『和漢三才図会』1712年。
・Cambridge University Press & Assessment『Cambridge Dictionary』。
・Merriam-Webster, Incorporated『Merriam-Webster.com Dictionary』。























