【ことわざ】
商人と屏風は曲がらねば立たぬ
【読み方】
あきんどとびょうぶはまがらねばたたぬ
【意味】
商売では、自分の感情や考えだけを押し通さず、客の意向に合わせて柔軟に応じなければ成功しない、ということ。


【英語】
・The customer is always right.(商売では客の意向を重んじる)
【類義語】
・商人と屛風は直ぐには立たぬ(あきんどとびょうぶはすぐにはたたぬ)
・屏風と商人は直にては立たぬ(びょうぶとあきんどはすぐにてはたたぬ)
・曲がらねば世が渡られぬ(まがらねばよがわたられぬ)
【対義語】
・正直は一生の宝(しょうじきはいっしょうのたから)
「商人と屏風は曲がらねば立たぬ」の語源・由来
「商人と屏風は曲がらねば立たぬ」は、屏風という道具の形から生まれたたとえです。屏風は、まっすぐ広げたままでは倒れやすく、少し折り曲げることで安定して立ちます。
この具体的な姿を、商人のふるまいに重ねています。商売では、自分の情や考えをそのまま押し通すだけでなく、買い手の意向をくみ取って応じることが大切だという教えを表します。
古い形としては、「屏風と商人は直にては立たぬ」という言い方が伝わっています。これは、屏風も商人も「直」、つまり、まっすぐなだけでは立ちゆかないという発想を、はっきり示す形です。
この形は、『日葡辞書(にっぽじしょ)』(1603〜1604年・江戸時代初期)に見られます。『日葡辞書』は、日本語の見出しにポルトガル語で語釈を付けた辞書で、当時の日本語を知るうえで重要な資料です。
『日葡辞書』の段階では、「曲がらねば」ではなく、「直にては立たぬ」という形で示されています。これは、屏風を折って立てるという実際の扱い方から、商人の世渡りや接客の姿勢を説明する言い方が、江戸時代初期にはすでに通じていたことを表します。
その後、『鷹筑波集(たかつくばしゅう)』(1638年序・1642年刊、江戸時代前期、西武編)にも、商人と屏風を結び付ける句が出てきます。『鷹筑波集』は俳諧撰集で、貞門の俳人たちの発句や付句を集めた書物です。
そこには、「すぐてはたたぬ世の中そかし 商人の屏風にしのをしつらいて〈定之〉」とあります。ここでは、まっすぐなままでは立たない屏風と、世の中で立っていく商人の身のこなしが、俳諧らしい言い回しで結び付けられています。
このことわざには、「曲がる」という言葉が入るため、悪い意味に受け取られることがあります。しかし、本来の芯は、相手をだましたり、道理を捨てたりすることではなく、商売の場で相手の気持ちを考え、かたくなな態度を避けることにあります。
表記や言い回しには、「商人と屏風は曲がらねば世に立たず」「商人と屛風は直ぐには立たぬ」「屏風と商人は直にては立たぬ」などの形があります。語順や末尾は少し違っても、屏風は折れて立ち、商人は相手に合わせて商いを成り立たせるという骨組みは共通しています。
現在の「商人と屏風は曲がらねば立たぬ」は、その流れを受けて、より短く分かりやすく言った形です。商売に限らず、人と関わる場面では、自分の考えを持ちながらも、相手の事情に応じて柔らかくふるまうことが必要になる、という意味で用いられます。
「商人と屏風は曲がらねば立たぬ」の使い方




「商人と屏風は曲がらねば立たぬ」の例文
- 店長は客の要望を聞き、商品の置き方を変えた。商人と屏風は曲がらねば立たぬという姿勢が、店の信頼につながった。
- 新しい取引先に自社のやり方だけを押しつけては、商人と屏風は曲がらねば立たぬに反する。
- 地域の客層に合わせて営業時間を見直した判断は、商人と屏風は曲がらねば立たぬの好例である。
- 父は商人と屏風は曲がらねば立たぬと言い、値引きだけでなく、相手の事情を聞くことを大切にした。
- 接客の場では、正論を言うだけでは足りない。商人と屏風は曲がらねば立たぬというように、言い方にも心配りが必要だ。
- 会社は長年の販売方法にこだわらず、客の使いやすさを優先した。商人と屏風は曲がらねば立たぬを実践した形である。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・平凡社編『改訂新版 世界大百科事典』平凡社、2007年。
・『日葡辞書』1603〜1604年。
・山本西武編『鷹筑波集』1642年。























