【ことわざ】
足駄を履いて首ったけ
【読み方】
あしだをはいてくびったけ
【意味】
恋の相手に深くほれ込み、夢中になることのたとえ。高い足駄を履いていても、首まで沈むほど深い所にはまり込む意からいう。


【英語】
・head over heels in love(すっかり恋に夢中である)
・madly in love(熱烈に恋している)
【類義語】
・下駄はいて首ったけ(げたはいてくびったけ)
・下駄で首だけ(げたでくびだけ)
・首ったけ(くびったけ)
・ぞっこん(ぞっこん)
・血道を上げる(ちみちをあげる)
【対義語】
・熱が冷める(ねつがさめる)
・愛想が尽きる(あいそがつきる)
「足駄を履いて首ったけ」の語源・由来
「足駄を履いて首ったけ」は、中国の古い物語にもとづく故事成語ではなく、日本語の比喩からできたことわざです。高い履き物を履いているのに、なお首のあたりまで沈むほど深い所にはまる、という具体的な姿を、恋に深くはまり込む心の状態に重ねています。
足駄(あしだ)は、雨の日などに用いられた歯の高い下駄のことです。近世には、特に高い二枚の歯を入れた履き物を指し、ぬかるみや雨降りの道で足を地面から高く保つ役目をもちました。
このことわざの面白さは、「高い履き物を履いていれば、少しの深みなら沈まずにすむはずだ」という前提にあります。それでも首まで沈むというたとえによって、ふつうの深さではなく、抜け出しにくいほどの深い恋心を表しています。
「首ったけ」は、もとは「首丈(くびたけ)」から変化した言い方で、足もとから首までの高さを表しました。そこから、物事が首の高さまで積もることや、首まで深くはまることを表すようになり、さらに強い気持ちに支配される意味へ広がりました。
「首ったけ」は、特に恋愛の気持ちについて使われるようになりました。近世前期には上方で「くびだけ」の形が用いられ、近世中期以後は江戸を中心に「くびったけ」の形が広まったと説明されます。
現在の形に近い古い用例としては、『郭中奇譚(かくちゅうきたん)』(1769年・江戸時代中期、臼岡先生作)に「兵蔵めが下駄で首だけほれやがつた」と出てきます。ここでは、「下駄で首だけ」という形で、相手に深くほれ込んだ人物を少しからかうように述べています。
この「下駄で首だけ」は、「下駄を履いているのに首まで沈む」という発想を短くした形です。すでに十八世紀後半には、履き物と「首まで沈む」イメージを組み合わせて、恋に深くはまることを表す言い方が使われていました。
また、『譬喩尽(たとへづくし)』(1786年・江戸時代後期、松葉軒東井編)には、「下駄はいて首ったけ」の系統の言い方が収められています。この資料では、「足駄をはいて首ったけ」「下駄で首だけ」という近い形も並んでおり、同じ発想から生まれた表現群として受け継がれていたことが分かります。
『譬喩尽』は、松葉軒東井(しょうようけんとうせい)が編んだ、ことわざやそれに近い言い回しを集めた資料です。後に高羽五郎(たかはごろう)校定の形でも刊行され、江戸時代のことわざ・比喩表現を知るための重要な資料として扱われています。
「下駄」と「足駄」はどちらも履き物を指しますが、「足駄」は歯の高い下駄という印象をより強く伝える言葉です。そのため、「足駄を履いて首ったけ」という形では、ただ沈むだけでなく、高い足駄を履いてもなお首まで沈むほど深い、という誇張がいっそう分かりやすくなっています。
このことわざでは、実際に水や泥の中へ沈む話をしているのではありません。首まで沈むほど深い場所にはまり込む姿を借りて、恋する相手のことで心がいっぱいになり、自分でも抜け出しにくいほど夢中になっている様子を表しているのです。
したがって、「足駄を履いて首ったけ」は、単に「好き」という軽い気持ちではなく、相手に強く心を奪われている状態をいうことわざです。古い言い方らしいユーモアをもちながら、恋に深くはまり込む人間の姿を、首まで沈むという目に見えるたとえで伝えています。
「足駄を履いて首ったけ」の使い方




「足駄を履いて首ったけ」の例文
- 健太は合唱の伴奏をした同級生に足駄を履いて首ったけで、休み時間もその話ばかりしている。
- 兄は近所の大学生に足駄を履いて首ったけで、手紙の返事を何度も読み返している。
- 友人は店で出会った人に足駄を履いて首ったけになり、待ち合わせの時間まで落ち着かない。
- 新人の同僚は取引先の担当者に足駄を履いて首ったけで、仕事中も表情が浮き立っている。
- 祭りで一緒に踊った相手に足駄を履いて首ったけになり、家に帰ってからも胸の高鳴りが収まらない。
- 彼は恋人に足駄を履いて首ったけで、少し会えないだけでも手紙を書きたがる。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・現代言語研究会『日本語を使いさばく 故事ことわざの辞典』あすとろ出版、2007年。
・松葉軒東井編、高羽五郎校定『譬喩尽』高羽五郎、1952〜1953年。
・臼岡先生作『郭中奇譚』1769年。
・Cambridge University Press『Cambridge English Dictionary』。
・Pearson Education『Longman Dictionary of Contemporary English』。























