【慣用句】
足駄を履く
【読み方】
あしだをはく
【意味】
買い物などで実際の値段より高く言い、その差額を自分のものにすること。値段を高く見せかけて上前をはねること。


【英語】
・skim off(預かった金や組織の金から、ひそかに一部を取る)
【類義語】
・下駄をはく(げたをはく)
・草鞋を穿く(わらじをはく)
・上前を撥ねる(うわまえをはねる)
・ピン撥ね(ぴんはね)
【対義語】
・正直は一生の宝(しょうじきはいっしょうのたから)
「足駄を履く」の語源・由来
「足駄(あしだ)」は、雨の日などに履く、歯の高い下駄(げた)をいう言葉です。普通の履物より足もとが高くなるところから、「本来の高さに上乗せする」という連想が生まれやすい言葉でした。
「足駄を履く」は、この足もとを高くする姿を、値段を高く見せることに移した慣用句です。実際の代金に余分をのせ、差額を自分のものにする行為を表します。
古い用例としては、江戸時代後期の滑稽本(こっけいぼん)『浮世床(うきよどこ)』に、この表現が出てきます。そこでは、売り物や買い物のたびにただでは通さず、必ず「足駄を履く」者として語られ、売買の場で上前をはねる意味で使われています。
『浮世床』は、文化10〜11年(1813〜1814年)に式亭三馬(しきていさんば)が著した江戸後期の滑稽本で、髪結い床に集まる江戸の人々の会話を通して、当時の暮らしを描いた作品です。三馬の死後、文政6年(1823年)には滝亭鯉丈(りゅうていりじょう)が続編を発表しました。
この用例が大切なのは、「足駄を履く」が単に履物を履く意味ではなく、すでに江戸の会話表現として「値段に上乗せしてもうける」という意味で使われている点です。高い歯のある足駄が、人や物を実際より高くするものとして受け取られていたことが、表現の背景にあると考えられます。
この言い方には、先に広まっていた近い表現とのつながりもあります。明和4年(1767年)の『川柳評万句合』には、同じ意味をもつ「下駄をはく」の例があり、人のために買い物をするとき、その値を高く偽ってひそかに上前をはねる意味で用いられています。
また、「草鞋を穿く(わらじをはく)」にも、売買の時などに値段を偽って上前をはねる意味があります。『東海道中膝栗毛(とうかいどうちゅうひざくりげ)』にもこの用法が見え、履物を表す言葉を使って、売買の不正な上乗せを表す言い方が複数あったことが分かります。
つまり、「足駄を履く」は単独で突然できた言い方ではなく、「下駄をはく」「草鞋を穿く」など、履物に関わる比喩の流れの中で理解できます。履物を履くと足もとが少し高くなることから、値段や取り分を不当に高くする意味へ移ったと考えられます。
現在では、日常会話で頻繁に使われる表現ではありませんが、意味の中心ははっきりしています。人に頼まれた買い物や代金の仲介で、実際より高い金額を伝え、差額を取るという、信用を損なう行為を指す慣用句です。
この慣用句は、昔の売買や仲介の場でのずるい振る舞いを言い表す言葉として定着しました。足駄という具体的な履物の高さが、「値段を高くする」という比喩につながり、今も不正な上乗せを表す言い方として残っています。
「足駄を履く」の使い方




「足駄を履く」の例文
- 仲介を頼まれた代金に足駄を履くようなまねは、信用を失う。
- 本当は八百円の材料費を千円と伝え、足駄を履く行為が問題になった。
- 友人の買い物を引き受けたなら、足駄を履くことなく正しい金額を伝えるべきだ。
- 見積もりに足駄を履くと、あとで領収書を見た相手に不信感を持たれる。
- 寄付金の取りまとめで足駄を履くなど、決して許されない。
- 店との間に入った人が足駄を履くため、品物の値段が不自然に高くなった。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・式亭三馬著、滝亭鯉丈著『柳髪新話浮世床』1813〜1823年。
・Cambridge University Press『Cambridge Advanced Learner’s Dictionary & Thesaurus』Cambridge University Press.























